誕生日と3回戦とマグロ。
翌、8月15日は実は俺の誕生日だったりする。ちょうどお盆時期に重なるので、子どもの頃からお友達を集めての誕生日会などはしたことがない。ただ、中身がおっさんな上に野球のことで家族に負担をかけている俺にとっては別にどうでもいいことであった。
とは言え、宿舎に誕生日プレゼントが送られて来て戸惑ってもいた。あ、一応プロフィールは公開しているから知っている人は知っているのだろう。いや、自分に「ファン」とかいう奇特な方々が存在していることに驚いた。ほとんどが食べ物だったのでチームのみんなと、そしてホテルのスタッフさんたちで分けてもらうことにした。
そして、誕生日ということでみなからのプレゼントがあった。それは、昨日の試合を応援に来た家族との面会が許可されたことだ。ショボいといえばショボいが、練習免除というのはなかなかのご褒美ではある。
と言っても近所の「回るお寿司屋さん」でお昼ご飯を食べただけですけどね。
「お兄は亜美ちゃんが選手権で優勝したの知ってた?」
妹が俺に聞く。
「ああ、もちろん。流石にそれくらいは知っているぞ。」
「良かった。それ大前提。で、これが亜美ちゃんからのプレゼント。」
開けて見ると自作の御守り袋か。
「優勝に効く御守りだって。」
ふーん。どうせなら中味に亜美の「下の毛」でも入れて置いてくれよ。おっと、妹にそんなことを言ったら嫌われる。
「お兄の『おまじない』が効いたお礼だってさ。」
俺は思わず袋を開けて中味を見てしまう。そして、驚いた。
だって、結界魔法の魔法陣らしきものが描いてあるんだもの。それは異世界の話。異世界での亜美は結界師のスキルを持つメンバーに描いてもらった護符に、彼女の1日の終わりに余剰分の魔力を注ぎ込んで俺に渡してくれていたものとほぼ同じものだったのだ。
つまりそれは異世界の亜美の記憶の半分、つまり俺と亜美が付き合いだした頃まではこの世界の亜美に知られている、ということなのだ。そして、亜美もその記憶を嫌がっているわけではない、ということか。
「どうしたの?ニヤニヤして。なんかお兄がキモい。」
「良いじゃないかそれくらい。」
妹の拒絶反応を父がたしなめる。術式が不完全だから魔法が発動することはないけど、亜美の思いはしっかりと伝わってきた。
17歳か⋯⋯。
宿舎に帰ってくるとフロントでご丁寧にお礼を言われてしまった。夕飯にはサービスでケーキが付いてきた。もちろんチームメイト全員にだけど。
3回戦の相手は福岡県代表の福岡
ただ、中西自体は気が強いのだろう。もちろん交流はないのだが2回戦を引き分け再試合で破っての3回戦進出。全部一人で投げ切ったというのだからまさに怪物級。先発が3人もいる青学には本物のエースはいない、とインタビューで切って捨てていた。
「俺だって全部一人で投げたいけどね。」
中里さんがイラッとした顔をする。
「まあまあ、結果が全ての世界ですから。戦ってもいない相手について語るのはね。」
でも、昨年は部員が暴力沙汰を起こして予選出場を辞退だったらしく、結構「ヤンチャ」な校風なのだろう。あ、そう言えば俺も暴力沙汰で一年休部してたんだっけ。他人のことは言えませんね。ただ、再試合は昨日だったので、流石に今日は先発しないんじゃ。
で、四番投手で出てきたぁ。昭和なら当たり前なんだろうけど、時代は平成なんだが。疲れが取れるものなのだろうか。
こちらは凪沢が先発。予定としては6回までで7回から胆沢が登板する予定だ。
中西はダイナミックなフォームで投げる投手で球速も155km/hを超える球を投げてくる。スケールは大きいけど、黒人選手みたいな野性的はものとか白人選手みたいな圧倒的なパワー感は無いかな。どうしてもアジア人はキレとか精度になってしまう。
⋯⋯そうでもないか。内角にぐいぐい攻め込んでくる。変化球もブレーキの利いたチェンジアップとスライダーに近いカーブ。そして特にフォークが140km/h台後半という怪物ぶり。さすがの俺も第一打席は派手に三振してしまった。
「まるでマグロだな。」
三振を喫した山鹿さんが防具を付けながら言った。
「確かに、ベッドじゃ偉そうに腕枕しながら寝ていそうだよな。パンツすら自分で脱がなさそう。」
「タツ、ソッチのマグロじゃねえよ。」
伊波さん⋯⋯。
「投げ続けないと死ぬタイプってことですね。」
「ああ。球数制限のキツいメジャーとか行ったら、かえって潰れるタイプだな。」
うちはいきなり9者連続三振を喫し、挙句凪沢はその中西に大会20号のソロ本塁打を浴びて1点ビハインド。
4回の攻撃は伊波さんから。
「俺、あのフォークなら打てそうだわ。」
そう言ってベンチからダッシュで打席に向かった。
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