甲子園デビューは華々しく。

 3日目は清々しい晴れ。みんな朝4時半起きは流石にきつかったらしい。俺は睡眠魔法による自動起床だから平気だけど。


 初戦の相手は中京真瑞ちゅうきょうしんずい高校。岐阜県の私立校で甲子園に数度出場経験がある強豪校だ。エースの右腕、川崎投手を擁し、東海大会準優勝校である。


 俺たちも久しぶりにメンバーが全員揃った公式戦。俺も背番号3を背負って一塁の守備に就く必要がある。指名打者は楽だったのに。


  礼を終え、あちらが守備につく間、簡単に円陣を組む。

「さあ、楽しくやろうぜ。夏での借りは全部返してやろう。」


 その宣言どおり、初回、から伊波さん

能登間さんの連打で無死二塁一塁。いきなりビッグチャンス。しかし後ろの山鹿さんを恐れた失投を捉え、いきなり本塁打。あれ?飛ばない、って言ってたけどアメリカやら国際試合で使ってるボールと変わらないじゃん。


 大会2日目までの5試合で本塁打が一本も出ていなかったので、これが大会第一号と言うことになった。そう考えると確かの飛ばないのかもしれない。


 この回打順が一巡する猛攻で4点先制。2回には伊波さんと山鹿さんの本塁打。さらに3回には山鹿さんに二発目の本塁打が出て早くも祭り状態。5回には住居さんにも本塁打が出てクリーンアップの揃い踏み。7回までにで21点とか言う飛ばないボールとは一体?という相手校にとっては苛烈な試合内容に。しかも俺は初めてサイクルヒットを記録した。


 中里さんも8回からは胆沢にマウンドを譲る余裕っぷりで圧勝。終わってみれば21対0と言う歴史的な大勝で幕を閉じた。


 インタビューも初めてだ。簡単なテレビでの謙虚な態度でインタビューを受けた後、他のマスメディアのインタビューを受けていた。


 「飛ばないボール」対策を聞かれた伊波さん。

 「飛ばないボール?芯に当てれば良いんですよ。それなりに飛びますから。」

伊波さん、煽っちゃダメですよ。


 今日2本塁打の山鹿さん。

「飛ばないボールで二発?木製バットでサイクル安打打つ後輩ほどじゃないです。」

山鹿さん、俺に振らないでください。


 木製バットでなぜ飛ぶか?伊波さんの答えと一緒だけどなぁ。芯にさえ当てれば木製の方が飛距離は出る。

「高校生が投げた球を高校生が打っただけです。センター返しに徹した結果がよかったんじゃないでしょうか。先輩たちのお手本通りです。」


「煽るねぇ。」

いや、先輩達は明らかに打撃も守備も上達している。おそらくプロ野球に行っても十分にレギュラーを張れるレベルだ。


 もちろん、ライバルたちも黙ってはいないだろう。開幕戦に登場した求道学院高の諸星さんは完封勝利を決めていたのをはじめ、皆その片鱗を現しはじめているのだ。


「男子三日会わずんば刮目して見よ。」という言葉の通り、強力なライバルが存在する世代は「●年組」と呼ばれるような最強世代を生みやすい。互いを意識して牙を研いでいるのだ。


 次の試合、2回戦は4日後の29日の第一試合。

「また朝イチかよぉ」

みんなの苦情が。それまでは近くの高校のグラウンドで練習。春休みに入って余計にギャラリーが増えている。もっともその学校の野球部員が警備を担当してくれたり、有志がお昼ご飯を差し入れてくれたりしてありがたかった。


 28日に2回戦が始まる。


 山鹿世代を代表する左腕同士の激突だった。

栃木の求道学院の諸星さんと大阪の大阪桃林の坂田さんの対決。息のつまる投手戦。


 試合は大阪桃林の4番、永田翔ながたしょうの大会10号、11号の二発で2対0で勝利。俺たちが勝てば準々決勝の相手は坂田銀侍さかたぎんじということもある。


 「本塁打、並ばれましたね?」

凪沢けっけが山鹿さんをからかう。

「あちらは2試合で2本だ。⋯⋯いや、諸星から二発だからタダモノではないな。」


 2回戦の相手は熊本科学技術くまもとかがくぎじゅつ高。熊科技くまかぎと略される九州の雄で数多のプロ選手を輩出した超名門校だ。


 エース熊部くまべを軸にした安定した守備のチームで九州第二代表である。先発は甲子園初登板になる凪沢。夏は出番前に終わってしまったため嬉しそうだ。


「行けるとこまで行くから健、あとは頼むぞ。」

凪沢のリリーフ指名が気に入らなかったのか中里さんが手を挙げる。

「いや俺が。」

胆沢も手を挙げる。

「いや俺が。」

この流れは⋯⋯あれか?俺も手を挙げる。

「いや俺が。」


そして

「どーも、どーも。」

?⋯⋯譲る気ないんかーい!

うん。投手陣の俺様度は健全な模様です。





 


 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            

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