惜敗と大勝のさなかで。

 5回、6番野木さんの三塁打。そして鈴原さんの渋いライト前というより二塁後方に落ちるヒットで1点を返す。まさに技あり。


 しかし6回、この大会で絶好調の大庭さんですら1点取られて再び4点差。


 そして8回、4回目の打席。俺の前の二番打者の寺口さんが安打で出て2死一塁。ついに俺の出番。ただ、キューバの投手がここまで3タコの高校生相手にビビるわけもない。


 俺は体力倍加魔法の新型術式を試すことにした。筋肉の体幹部にだけに魔法をかける。これなら魔力消費も半分で済む。これまでは全身にかけていたのだから、腕などに余計な力が入り過ぎていたかも。


 アウトサイドのボール気味の速球。しまった腕の振り出しがほんのわずか遅れたぞ。魔法の発動が失敗したのか?


 いや、何という腕の振りの速さ。一気にボールの軌道を捉える。インパクトの瞬間、しっかりグリップしてそのまま振り抜く。少し遠目の遠目の球だからそこまでいかないと思ったが。綺麗なアーチを描き打球はライトスタンドへ。これで2点差。


 しかしその裏、キューバの勢いに押され來村さんが失点して再び3点リードを許す。


 最終回。主将キャプテン鈴原さんの檄が飛ぶ。

「高校生に打てるんだ。俺たちに打てないわけがない!」


 出た。「鵯越ヒヨドリごえ」論法。キューバの抑え投手を相手に5番蝶野さん、6番野木さん、7番鈴原さんの三連続二塁打で1点差まで迫る。しかし、あと一本が出ず試合終了ゲームセット。この大会で初めての黒星を喫する。


「くっそ、健ちゃんまでつなげれば⋯⋯。」

まあ、次もキューバの投手がナメた投球してくれればアリですけど、どうかな。


 しかしキューバに16安打も打たれて6失点なんだから、バッテリーが良い仕事をしたとも言える試合でもある。


 翌日のイタリア戦も同じ球場でデーゲーム。


 イタリアも野球やるんだなぁ⋯⋯。個人的には映画でもマカロニウエスタンがあったりしてアメリカ文化を受け入れてそうなイメージはある。なんか一通りプロスポーツ文化があるというのが正解なのか。確かバレーボールとかもプロリーグあったよね。


 その日は雨のため開催が危ぶまれていたが小雨になったため強行開催。ああベンチスタートで良かった。試合はいきなり日本が2点先制。ぬかるんだグランドをものともしないのって日本人だけじゃない?ちょっとイタリア選手に同情してしまった。


 とは言えこちらの先発の宮市さんもピリッとせず。四球絡みで初回から1失点。

2回も2失点と関西の大学リーグナンバー1投手らしからぬ感じに。今大会初登板なのと雨の影響もあったのだろう。


 ただこちらも2回に3得点して5対2と優位な立ち上がり。4回から鷹崎さんがマウンドを引き継ぎ、雨も上がった頃からようやく「泥んこプロレス」状態だった試合がしまってくる。


 そして7回にも1点を挙げたこちらがさらに大庭さん、益岡さんの必勝リレーで5対3で逃げ切り勝ち。俺の出番は最後までなかった。


 これで予選2位以上が確定した。つまり1位のキューバと初戦で当たらないという意味だ。残りの1試合がフィリピンということもある。フィリピン代表は他の代表チームと比べて力の差が歴然でこれまで6試合全敗、しかもコールド負けが5試合とほぼサンドバッグ状態だったのだ。……ボクシングは強いんだけどね。


「いいか、最後まで自分たちの野球をやりぬこう!」

 空気がたるみそうだったチームに鈴原さんが喝をいれる。すみません。高みの見物決めてました。


 とはいえ、初回から2点、そして2回にはさらに5点と大量得点。いきなりの楽勝ムードが漂う。フィリピンの投手の四球や野手陣の失策が多く、そこに安打が絡むからだ。


 4回と6回も5点づつ加点し終わってみれば17対0の7回コールド勝ち。16安打、10四球。あーあ、明日はせっかくの予備日だけどオフじゃなくて練習なんだよな。


ただデーゲームだったので夜は外出許可が下りる。よーし、街で羽を伸ばすか!

「健ちゃんはお留守番ね。お土産買ってきてやるからな。」

と思ったらみんなに置いていかれた。考えてみれば未成年だし。


 久しぶりに異世界時代の冒険者時代を思い出してしまった。あの時もあまり飲みにはいかず、道具の管理に没頭していたっけ。






 


 


 


 

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