必ず最後にI(アイ)は勝つ?

 乱打戦の様相を呈してきた2回戦。


 2回裏には伊波さんの本塁打で勝ち越す。やっぱりこの先輩方に金属バット持たすの反則かもな。3回にはさらに俺と山鹿さんは歩かされ、住居さんに適時打タイムリーが出てさらに2点追加、6対3とする。


 3,4回はまだ解析中なのかあちらの動きはなかったが5回。今度は直球狙いだ。凪沢は平均して138km/hくらいの直球なので、来るのがわかってさえいれば打てるだろう。


 個人的にはこういう頭脳戦の必要性が疑問だ。アメリカみたいにストライクゾーンにとにかく投げて打つ。高校生まではそんな感じなのだ。捕手と投手は攻撃にすら参加しないことも多いし、ボックスに立っても塁に出ればすぐに特別代走が出てすぐに次の守備の準備に移るのだ。


 捕手は防具プロテクターをいくつもつけるので着替えに時間がかかるから。試合時間短縮のためでもある。日本でも控え選手が防具プロテクターの着用を手伝うけどね。


 監督は点差を見て続投を指示。再びサインを変えるが、今度は凪沢の方が混乱し始める。逆球が増えはじめ山鹿さんが身体を呈して止めたものの進塁され、1死2,3塁。


 俺はタイムを取り小走りにマウンドへ。

凪沢ケッケ、おちついていけ。点取られても何点でも取り返してやるから心配すんな。最後に1点多ければいい。」

そして、去り際に「混乱解除」の支援魔法バフをかける。


( ちなみに凪沢の名前は圭介けいすけなんだが、東郷監督はいわゆる体育会系の滑舌かつぜつの悪い人で、彼の呼ぶ「けいすけ」が「けっけ」にしか聞こえないことから呼び名がそうなってしまった。)


 落ち着き取り戻した後は外野への犠飛で1点返されたものの、なんとかしのぎきる。さあ、ピンチの後はチャンスだ。みんなもだいぶ相手投手にも慣れてきた。


 5回裏からの攻撃。この回先頭の俺がセンター前に安打。すかさず盗塁する。いつもはそんなことはしないのだが完全に意趣返しかえし。山鹿さんが怖いバッテリーは空いた一塁に歩かせるが、俺は加速魔法をかけて三盗を敢行。


 ここを無失点で抑えればまだ勝利が望める分水嶺わかれめだと考えていたはずだ。なんとかアウトが欲しいバッテリーだが住居さんにそれを見すかされ、甘く入った変化球をレフトオーバーの二塁打を打たれ、俺が帰って一点。さらに中里さんに3点弾スリーランを浴びて合計4失点。これで10対4。


 立ち直った凪沢が相手を無失点に抑えれば、6回先頭の伊波さん、能登間さん、俺が3連続2塁打で2点を加える。無死二塁でなおも4番山鹿さん。ストライクを入れるつもりのない投球だが、俺の盗塁を意識しすぎて外し切れていない甘い外角へのボール球を山鹿さんに捉えらえる。木製バットで甲子園なら外飛で終わるだろうが、あいにく金属バットで、しかもここは神宮球場。ライトスタンドに放り込まれ、10点差。ここでコールドゲームが成立するという珍しい「サヨナラ本塁打ホームラン」に。


 いつもは紳士的な山鹿さんが珍しくガッツポーズをする。(本塁帰塁後に審判に注意される。)やはり、うっぷんがたまり切っていたのだろう。


 相手が「サイン盗み」をしたかどうか、それは物的証拠が無いので責めようがないが、結果は力で押し切った勝利だった。とにかく今日の投手が凪沢だったおかげだろう。中里さんや胆沢じゃブチ切れていた可能性の方が高い。まあ間違いなくやっていただろう。


 「とにかく、『サイン盗み』に対する危機管理がなってなかったことははっきりした。明日に備えて投手と捕手はミーティングだ。」

監督の鶴の一声で決まってしまった。まあ仕方がないか。


 明日の相手は夏の甲子園で苦杯を喫した作人館さくじんかん高と決まった。明日の試合はあさイチだったので今日だけ宿舎ホテルをとっていたのだ。バスで片道1時間半でも泊った方が身体は楽だ。


 宿舎周りを散歩していると誰か近づいてくる。大きな男だ。「大きな」と言っても俺もだいぶ大きいので俺とはあまり背丈はかわらないが俺よりは少し背は高くがっしりとしている。

「青淵学館の沢村さんですね?」

見た目より紳士な雰囲気だな。ただ物凄い強面こわもて。女子に声掛けたら即通報されるレベル。去年の夏のゴンザ君の関係者じゃないだろうな。

「はい。あなたは?」


「俺は作人館高校の熊野慶悟くまのけいごベンジャミンと言います。」

ああ、明日の対戦相手。しかも捕手で主砲。なんのご用件だろう?


「あんた、この世界の人間じゃないね?」










 

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