楽な相手なんていないでしょ。(神宮大会2回戦)

 日本文教にほんぶんきょう高は新潟の高校だ。実は新潟も埼玉に負けず劣らず高校野球が弱かったりする。野球漫画の金字塔「ドカベン」の作者の先生が新潟のご出身なので俺的には意外だ。今年のセンバツで初めて新潟県勢として初勝利をあげたのだ。ということは昭和時代まで1勝もしていなかったことになる。これをきっかけにして飛躍をはかりたいところだろう。


 伊波さんが相手の応援席にじっと目を凝らす。

 「どうしたんですか?」

 「沢村ケン、知ってたか?新潟のJKは日本一スカートが短いらしいぞ。」

「知りませんよ。だいたいそんな遠くから見たってパンツは見えやしませんよ。」

「いや、そのための心眼だろうが。」

「そんな煩悩ぼんのうまみれの心眼なんていやですよ。」


 たしかに結構みんなスカート短いぞ。俺の中の人が高校生だったころは不良の女の子はみんなスカートを長くしてたからな。関西は逆に短かくしていたらしい。神戸のお嬢様女子高生なんてみんなスカート長いもの。これは昔も今も変わらないらしい。


 先発は凪沢、中里さんはレフトに入った。最近は相手チームの奇策続きだったのでまともに試合ができそうだよ。と思ったのもつかの間、凪沢がいきなり打ち込まれる。4連打で1点を失いなお満塁。立ち上がりが悪くない彼にしては珍しい。


 凪沢ケッケの持ち球はカーブが2種類とチェンジアップだ。カーブは高速で手元でグッと曲がって来るやつと、凄い落差のあるスローカーブ。


 そのチェンジアップを狙われているのだ。いや、確実にチェンジアップだとわかっているような待ち方。


 監督もタイムを取り、伝令を送ってきた。

山鹿タク、どうやらサインが盗まれている。出し方を変えろだとさ。」

捕手のサイン、つまり投手への指示が盗み見られ、それを打者に伝えているのだ。もちろんマナー違反であり、ルール違反でもある。


「やってんのはベースコーチかな?」

「走者が出れば2塁走者だろう。」

捕手のサインを盗み見れるのはどちらかしかいない。


「わかった。」

山鹿さんはグラブで口元を隠してから凪沢に指示を与える。どうやら今回も一筋縄ではいかないな。意外に知恵を働かせてくるタイプか。ただサインの出し方をかえて何とか併殺と三振で凌いだが、併殺時に一点加点されて2点のビハインドだ。


「抗議とか、審判に訴えたりはしないんですか?」

俺の問いに山鹿さんは首を横に振る。

「一発勝負のトーナメント戦なんだ。どんな手でも使うやつは使う。俺たちは卑怯な手を使わない。ただそれだけだ。」

 まあ、俺だって魔法使ってますからね、人のことは言えないか。


 ただし、青学打線に2点はハンデのうちには入らない。お返しとばかりに伊波さんと能登間さんが連続安打。ここでまた珍プレー。


 俺の打った三塁線のファール。三塁手が処理してカバーに入った投手にトス……。さあ仕切り直しと思った途端に伊波さんがアウト。いわゆる本来の「隠し球」だ。

投げたと見せかけて三塁手が持ち帰っていたのだ。油断したこちらも悪いが釈然としない。どちらかと言えばドヤ顔すらしない投手になにか怖いものを感じた。


 こういうチームは接戦に持ち込んではいけないのだ。そうなるとどんな危険なプレーをしかけてくるかわからない。ここは最初から「飛ばす」べきだ。俺は初回から魔法をかける。


 ぶつかってもかまわないといわんばかりに内角を抉るようなカーブを弾きかえした。ライトスタンド前列への本塁打。神宮球場の狭さのおかげだ。これで同点。


 さらに続く山鹿さんにも本塁打が出て3対2と逆転に成功。


 つづく2回、凪沢がまた打たれる。サインに変数をいれたのだが、一回の攻撃中に解析されたらしい。山鹿さんが凪沢の身体の正面に返球したら+2、グラブ側にかえしたら+1の計算でサインを出すのだがすぐに読まれていた。


 二塁走者がリードも取らずに目をこらし、ヘルメットのつばや耳をいじっているが、あれがサインだろう。ああ、あの悪さしてる右腕に軽くでいいから麻痺魔法かけてやりてー!


 だが、それだけはだめだ。俺のプライドも許さないし、ケントとも対戦相手に状態異常魔法デバフはかけないと約束している。どれだけ相手が卑怯でもだ。相手がこちらを怪我させるような手を使ってもそれだけはいけない。


 結局チェンジアップを封印してカーブ2種とストレートの組み立てで勝負することにしたようだ。凪沢は胆沢ほどの球速はないが制球が非常に安定しているのでなんとかなるだろう。


 どうにか失点を1にとどめたがまた試合は振り出しに。伊波さんが言った。

「新潟のJKは日本一スカートが短いかもしれんが、俺は日本一気が短い主将キャプテンだからな。」


うん、例えが拙劣へた



 



 





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