目には目を、変化球には変化球を。(神宮大会1回戦つづき)

 山鹿さんがゴロに打ち取られてチェンジ。本塁打を打った俺は攻略法を聞かれる。


「俺の4シームジャイロに近いですかね。握りも球筋コースも全く違いますけど。芯を外して打ち取る球ですね。タイミングの取り方さえわかればなんとかなりそうですけど。ただ左打者には打ちづらいかもです。馴れる頃には試合が終わってるんじゃないですか。」

 

「そうか。山鹿タクを当てにはできんかもしれんな。」

ボールを「切る」ように投げるので「カット」ボールと呼ばれている。つまり下回転バックスピン横回転ジャイロスピンが加わっているのだ。


 一方上村学園高は3回も足技で1点をあげて2対1とするも、伊波さんのソロ本塁打で同点に追いつく。 最初の一巡は対応できなかったが、二巡目から早房さんの投球に順応し始める。さすがだ。能登間さんもヒットで続くと、早房さんは俺を歩かせ、山鹿さんとの勝負を選択する。タイミングがあわないのか、併殺打。


 さらに6回にも1番早房さんからスタート。バントとわかっていても止められない俊足。浮き上がってくるように見える中里ダイチさんの投球たまをかぶせるようにバントする。三投捕のちょうど中間にうまく勢いを殺したボールが転がっていく。


 まさに芸術。能登間さん以外でここまで巧みなバントを見たのは初めてだ。そして盗塁。二番打者も山鹿さんが動きにくい様にバットを揺らす。盗塁が成功したらバント。そしてスクイズ。まさに絵にかいたような得点で再びリードをゆるす。


 「なぁ沢村ケン、スクイズってさ。英語で『搾り取るsqueez』って意味があるの知ってた?」

 伊波さん、俺アメリカに半年くらい行ってたんですけど……。でも、まさに搾り取る、って感じの得点劇だ。


 そして8回、早房さんは俺を再び敬遠。よほど左打席に入ってやろうか迷ったけど、山鹿さんがだめでもさらに住居サンタさんも中里さんも控えている。だから先輩たちに任せよう。


 山鹿さんの1B2Sからの5球目だった。あれほど苦しんだカットボールを本塁打。一気に4対3と逆転に成功。


「まあ、あれだけしつこく投げてくれれば打てるだろ。沢村ケン投球たまよりは難しくないしな。」

いつも冷静であまり感情を表に出さない山鹿タクさんだが珍しく「毒」を吐いた。やはり俺を敬遠された上に併殺ゲッツ―を食ったことがよほどこたえていたのだろう。


 「中里ダイチ、9回はどうする?沢村ケンに任すか?」

山鹿さんに聞かれた中里さんは首を横に振る。

「いや、さすがにやられっぱなしで終わるのもしゃくだからな。変化球には変化球でお返しだ。あの新球解禁すっぞ。」

「甲子園でお披露目じゃなかったのか?」

「そのつもりだったが、俺をここまで甚振いたぶってくれた御礼だよ。」


「お礼参り」か……。中身昭和な俺はすぐ不良ヤンキーの言う「報復」を指す言葉が頭に浮かんだ。


 9回表、再び先頭打者は早房さん。一球のけぞったがストライク。バッターボックスぎりぎりで立っているところに自分に向かってくるシュートが来たのだから驚いたのだろう。

 

 ぶつかれば死球で一塁に楽々行けるとは思うがさすがに反射的に避けるよね。

次ぎも同じコースに来たシュートをバントしようとしたがボールが手元で落ちたため、ファールボール。


 シュートではなくシンカーだ。ただ、これは中里さんの新球ではない。もう一段、あるのだ。


 3球目、シンカーを予測した早房さんのバットをボールがすり抜けるようにさらに鋭く落ちる。三振がコールされた。バットを握った手を見ながら早房さんがベンチに引き揚げる。


 「ダイチボール」である。正確には親指を添えないシンカーである。突然、がらりと変わった投球の組み立てに対応できず、3者凡退。俺たちが2回戦への進出を決めた。


 礼を交わした後、早房さんが中里さんに何か言っていた。

「何言われたんですか?」


「あぁ、先輩たちのリベンジはならなかったけど、甲子園では自分たちの分も含めてリベンジさせてもらいます、だとさ。」

そっか、地区大会のチャンピオンシップ大会だから春の甲子園にはまた来るんだよなぁ。


 次の相手はもう決まっている。くじ運が良かった残り8校の一つ、北信越代表の日本文教にほんぶんきょう高である。





 


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