SUGOI UTERU 外国人高校生と。 (準決勝)

 木更津誠和は千葉でも強豪の一角だ。昭和時代を知る俺にとっては銚子商高の「黒潮打線」なんて記憶にある。そのほかにも公立高校が強かった。今はほかと同じく施設と環境が整う私学の独壇場になっているけど東京・神奈川・千葉の野球部は強豪が多い。


 よく埼玉県人と千葉県人は張り合っているなんてイメージがあったりするがただのネタだ。どちらも人口の多くは県外から転入してきた人たちだし、どちらも江戸時代に雄藩ゆうはんがあったわけでもなく住民に「クニ」感覚は希薄だ。それに互いを嫌うほどの歴史的な確執もない。


 明治以降、武蔵国が東京都、神奈川県東部、埼玉県に切り離された埼玉人にとっては歴史的にも生活的にも東京(江戸)への帰属感が強いのかもしれない。


 話がそれたが先輩たちは昨年の関東大会でも対戦したことがあり、わりと馴染みの相手のようだ。あれ、留学生もいるんだ?


「アメリカからの黒人留学生がいるんだぜ。タイソンって名前からして強キャラ感あるけどマジでぶっ飛ばす。」

(現在はアフリカ系アメリカ人と表記される。作者註。)

伊波さんが教えてくれた。たしかに体躯ガタイもデカいし凄い上背の筋肉。

「俺たちは『黒い山鹿ブラック・タク』って呼んでんだぜ。勝手にな。」

それ、かえってって親しみこもってますやん。


 アメリカ留学経験のある俺にとっては珍しいより懐かしさが先立ちアカデミーはどこよ?とか大学決まった?とか話しかけたくなるくらいだ。


 試合は1回、能登間さんの安打と盗塁で1死二塁。先発が胆沢なので先制点をあげておけば落ち着いて投げられるよなぁと考えながら打席に。


 相手投手の影島隼人かげしまはやとさんはセットポジションでなければ腕を高くつき上げ、足を大きくあげ、しっかり沈み込んで振り下ろしてくるダイナミックなフォームだ。思わずフォームの解析していたら決め球のフォークボール。蒲生さん並みに落差がある。思わず空振りの三振。


 あれ、どこかで見たことあるよな。ベンチに座った瞬間、歓声があがる。山鹿さんが2ランを打ったのだ。さすが4番。何度か見れば打てるというのは本当なのね。


 2回表、くだんのハリー・タイソン。柏手を打つように一回手を合わせてからバットを構える。たしかに左打者なのも山鹿さんと一緒だな。胆沢のまっすぐをとらえる。およそ金属バットで聞いたことがないような音を立て打球が放たれる。


 あー、いったな。観るもの全員がそう思ったろう。ありえない角度と飛距離でバックスクリーンの上の旗ざおに届くかという特大の一発。あんなやつに金属バットなんか持たすなよ。


 タイソンがダイヤモンドを回っている間、山鹿さんが胆沢に駆け寄り

「どんなにでかい当たりだって1点にしかならん。点なら取ってやるから落ち着いてなげるんだ。」

 カッカする胆沢をなだめてから戻る。


 ただ本塁打を互いに浴びた両投手は落ち着きを取り戻して締まった展開に。


 今日の俺は2三振とふるわず……ではなくフリをしてチャンスを待つ。思い出した。あれはマサカリ投法だ。昭和の人間ならだれでも知ってる千葉の川崎時代の鉄人、村田超二だ。


 6回裏2死一塁。一塁に安打で出た伊波さんを置いて俺に打順が回ってくる。俺の後ろは本塁打と二塁打を打たれた山鹿さん。今日2三振の俺。ここはどうしても勝負に来るでしょ。さあ、魔法を重ねがけ。2B2Sからの5球目、美しいフォークボール。落ちるボールに鋭いナイフのようにバットがスッとあたる。


 木製バットの美しい打撃音が響くと打球は高い弧を描いてバックスクリーン上部へ。フォークにナイフか……。洋食ディナー打法だなぁ。絶対声に出しては言わんけどね。


 7回、再びタイソンの打球はライトスタンドを超える場外本塁打。胆沢がイラっとした表情で額の汗をぬぐった。


 完投したい、と訴える胆沢に東郷監督は「タイソンまで打順を回さなければ」という条件で許可。


 うん、俺もあんまり対戦したくないからよろしくね。中里ダイチさんが投げたそうに監督をチラチラ見てる。

「お前は明日の先発だろ。健、行けるよう準備しとけ。」

一喝されてた。


 ただうまくいかないもので、最終回2死まで行って最後の打者にするはずの影島に四球を与えてしまう。ネクストに控えるのはタイソン。


中身昭和の俺は「タイソン」という名前だけで萎えそうなんですけど。


ここで投手交代のアナウンス。俺が呼ばれる。


背番号20の俺がマウンドに向かった。



 


 






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