関東大会、春の甲子園の出場権をかけて。

 今年の関東大会は茨城県で行われた。7県の15代表による戦いだ。(ちなみに開催県が3校代表。)トーナメント戦なので開催県の茨城県第一代表校がシードとして2回戦から登場する。


 開会式では見知った顔も多かった。先輩たちとの写真を撮りに来る連中も多くて俺はずっとカメラマンである。次から次へとカメラを渡される。デジカメの人、ケータイの人、はたまたレンズ付きフィルムう●るんですの人。さすが甲子園のスターは格が違う。


1回戦の相手は日総大湘南にっそうだいしょうなん高校。全国各地にある日総大の付属高校の一つだ。強豪ひしめく神奈川の県大会を勝ち抜いてきた。エースは山鹿さんと同じリトルの出身でジャイロボーラーの白縫しらぬいさん。俺も一昨年のシニアの選手権で対戦している。


 こちらの先発はエース中里さん。甘いマスクとは裏腹にめちゃくちゃ気が強い。というか凪沢や胆沢も気が強く、これが投手にとって最低限必要なメンタルなんだと思う。前世の俺にいちばん足りていなかったものだ。今の俺の場合は前世と異世界での悔しさが今の精神力の源だ。二度とあんな惨めな思いをするもんか、って感じだ。


 初回の攻防は共に三者凡退。俺も綺麗な回転の4SGに空振り三振を喫する。ただし目に球の軌道を焼き付けておいた。それよりも怖いのが同じ腕の振りからくるチェンジアップ。


 2回裏、4番の山鹿さんが打席に立つ。2B2Sからファール。6球目の4SGを完璧にとらえた。ライトスタンドへのソロ本塁打アーチ。いくらライバル相手だからって速球勝負だけでは打たれるでしょうに。


 続く3回には伊波さんはチェンジアップをレフトスタンドにソロ本塁打アーチを放つ。超絶変化球も「悪球」の内なんだろうか。


 ただあちらも黙ってはいない。4回には白縫さんが中里さんから本塁打を打ち返して1点差にせまると、6回には雪村に2点適時打タイムリーを打たれて逆転される。


 ただ、そのすぐ裏に俺の出番が。能登間さんが芸術的なヒットで塁に出る。つづく打者が俺。白縫さんは相変わらずネクストサークルの山鹿さんに気が向いている様子。シニアの時にもそれで俺に打たれたでしょうに。


 見せ球のアウトローの超遅球チェンジアップに泳がされるふりをしてみた。さあ来い。4SG!


 えぐるようなインサイドへの4SG。前回よりもさらに速く感じる。でもね、俺もアメリカでこの手の変態的なボールを投げる投手とたくさん対戦してんだよね。

 

 鋭く振ったバットがボールと衝突インパクト一撃魔法クリティカルも発動し、振り抜いたボールはセンター方向へ伸びる。本塁打。


 しかし、白縫さんは山鹿さんとの対決にすでに切り替わって……。いや、最初から俺があいてにされていないかも。山鹿さんを右飛ライトフライに打ち取った時にガッツポーズ。


 8回を投げ切った中里さんと交代した俺は打たせてとる投球ピッチングで2死を取ると打者白縫さん。2SG、4SBでファール2つで2Sを取ると最後は4SGで見逃しの三振で|試合終了。白縫さんはなるほど、という表情を浮かべた。


 支度を終えて入り口を出ると白縫さんが山鹿さんを待っていた。二人のやりとりを聞くこともなく俺たちはバスへと向かった。


 久しぶりに山鹿さんの隣に座る。

「健、難しい球を良く打ってくれたよ。」

褒められた。

「アメリカと社会人野球で良い時間を過ごせたようだな。白縫のやつ、お前がジャイロとバックスピンを投げ分けてるのに気付いていたよ。やっぱりアメリカは良いか?」

「英語ができて、食事にこだわりがなくて、人種差別が気にならなければ、最高ですね。」

「そっかあ。お前案外タフなんだなぁ。」

「それほどでも。」

 異世界生活を送れば白人だの黒人だの違いなんて無いも同然。リザードマンやらオーガやらゴブリンやら。亜人、獣人、魔人と過ごすことを思えばどうってことないですし。


「しかし、山鹿先輩も主将業大変ですね。」

高校になっても部員のケアとか偉すぎる。しかし先輩の答えは衝撃的だった。

「いや、主将は伊波だぞ。」

「え?」

なんでも青学に入学したときから5人の間で決めていたことらしい。中等部の時は山鹿先輩、高等部の時は伊波さんが主将をやるということなんだそうだ。


「お前知らなかったのか?」

「はい⋯⋯全く。」


 翌日の2回戦(準々決勝)は共に1回戦を勝ち上がった山梨県代表の甲府学院だった。今日の先発は凪沢。グラウンドでアップをしていると相手チームも同じく準備を始める。


 相手投手どこかで見たことあるな。そう呟くと胆沢が俺を小馬鹿にした口調で言う。

蒲生がもうさんだよ。シニアの時に対戦しただろうが。トルネードの人だよ。」

あー、いたいた。思い出したよ。



 

 



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