秋の県大会と両利きと両刀。
なるほど、
学校に行くとロッカールームでさっそくいじられる。ただ大抵、俺が右を使えることを知らなかったやつの方が多かった。
「両利き王子て、お前は男でも女でもいけんのやなぁ。」
「あ、それ両刀な。」
そう、絶対こういじられるのはわかりきっていた。
お昼の校内放送では
「いやいや『両利き王子』て。だいたい王子王子って牛肉じゃあるまいし。」
と
「タツ、それは『
ケントもあきれ顔だ。
「じゃあ俺は『悪球王子』だろ。
「だとすると
「
「いやあ、私が『王子様』だったのはずいぶん昔の話だね。今は『う』が抜けてただの『オジ様』さ。」
「誰が上手いことを言えと。」
県大会は19日から開始。我が校は甲子園出場校のため第一シード。登場は2回戦から。
21日の2回戦は胆沢が先発。
さすがに5人衆が出てくると強い。18対0で5回コールド勝ち。俺も2年ぶりに目の前で先輩たちがプレーしているのを見ると「帰って来た」という実感がある。
1日おいた23日の3回戦は
準々決勝でようやくエース中里登場。新興の私立校を寄せ付けず10対0で5回コールド勝ち。本格派の二人の二年生と違って技巧派だったはずだが
そして準決勝の相手は彩栄学院。会場は市営大宮球場。バスを降りようとしたらもう少し先まで行けと指示される。そうでもしないと警備がたいへんなんだそうだ。甲子園のスターは伊達ではない。
前の試合が長引いていたせいですぐにロッカールームも使えず、俺たちは球場のコンコースでアップをしていると、亜美がやってきた。ユニフォーム姿を生で見るのはリトル以来か。
「健!」
満面の笑みで手を振りながらやってくる。
「亜美。どうした?敵情視察か?」
今日の対戦相手は亜美の通う学校なのだ。
「いや、評判の『両刀王子』の様子を見にきた!」
こういうところは普通に女子だ。しかもまた「両刀」ネタ。
「『両刀』じゃねぇ。『両利き』だ。俺を『
「えー、わたし
「誰?この可愛い子。」
伊波さんが近づいてくる。
「こんにちは、お邪魔してます。彩学女子野球部の松崎亜美です。」
「あれ、彩栄の松崎っていえば……。」
「夏にやった女子ワールドカップの三冠王ですよ。亜美とはリトルが一緒だったんです。」
俺が補足説明する。
「健、お前がさすがに両刀でも女子部には入れんぞ。」
「だから両利きやっつーの。亜美とは家も近所だし同小だったんですよ。俺が『王子』ですべってたんでからかいに来ただけです。」
「亜美ちゃーん。」
そこに男子部員が亜美を迎えに来る。
「だめだよ、対戦相手のとこなんか行ったら。」
そこそこイケメン。「顔」ではなく「面構え」というべきか。自信満々な顏。
「彩栄の黒澤君だね。見られて困るものではないから別に構わないよ。彼女、うちの部員の知り合いだそうだし。」
山鹿さんに顔が知られていることを知ると、黒澤は小鼻をふくらませる。彼は俺に向き直った。
「甲子園チャンピオンに知られているなんて光栄ですよ。あんたが沢村君?去年は対戦しそこなってしまったけど、今回は楽しみにしてるよ。じゃあ、亜美ちゃん戻るよ、監督が探していたし。」
誰なんだ?そして亜美に馴れ馴れしい。
「あいつ、去年のシニアの選手権で決勝の相手チームにいたやつだ。」
そうか、俺が「すっぽかした」やつね。。
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