神宮大会で暴れてしまった。

高校野球、第3の頂点を目指して。

 高校野球に挑むより先に社会人野球を経験してしまうというトンデモなハプニングがあったものの、高等部のグランドでの練習は新鮮だった。中等部からの持ちあがり組はお久しぶり、高等部からの参入組とは1、2年含めて初めまして。もっとも授業、特に数Ⅰの底辺クラスですでに顔みしりのやつは多い。そして、シニアを卒団した中等部3年生も9月から高等部の練習に参加していた。


 グラウンドにはちょっとした観覧席があり、週2回の試合形式の練習ではハンディカメラを持った大人たちがたいてい一人か二人はきている。


「凄い熱心だな。誰かのお父さんか?」

俺が感心してると後ろから小囃子ミッツ安武トラが来る。

「あれはプロ球団のスカウトですよ。」

「そうなんだ。やっぱ先輩たちは凄いなぁ。」

「オイオイ。あんたもや。」

俺が素直に感心するとツッコミがはいる。


「そうか、お前たちも凄かったもんな。全国制覇おめでとう。」

シニアの選手権で中等部が優勝旗チャンピオンフラッグを取り返してきたのだ。

「そうですよ。俺たちが沢村先輩ケンさんの忘れ物を拾ってきたんですから。」

なんとまあ出来た後輩たちだよ。


 アップ、ラン、素振りの基礎練習は共通だが、投球無しノースローのトレーニングの日、ポジションごとに分かれた練習の日、実戦形式の練習の日と別れているのだ。


 ランナーを塁においてからの投球、打撃、走塁や牽制、バント処理、守備のフォーメーションなどシュミレーションしながらイメージを高めていく。


 さて、春と夏の甲子園に加えて、高校野球にはもう一つの頂点が存在する。それが「明治神宮野球大会」だ。秋の県大会、地区大会に優勝した10チームによるトーナメント戦である。


 優勝すると「神宮大会枠」として春の甲子園に行けるため、地区の出場校が一つ増えるというメリットがある。


 その前哨戦に当たる埼玉県北部予選がすでに始まっている。北部予選は埼玉県大会に北部代表として出場する8校を決めるものだが、夏の甲子園予選で優勝している青学は予選免除。北部代表の枠はもらった上に県大会も第一シードだ。


 そうでもないと甲子園出場校は体制の転換に出遅れている分不利になるのだ。


 俺は練習後監督室に呼ばれる。東郷一平とうごういっぺいという監督で俺が在籍したアメリカのアカデミー出身だ。


 「沢村君。高野連の登録は今週中には済みそうだ。最初は『転部』にあたるんじゃないかと言ってきたけどね。」

 「転部」だと秋季大会と春の甲子園に出場できなくなってしまう。

「ただキミの場合は入学してから初めての登録になるからね。『転属』であって『転部』ではないということになった。うちが明後日の予選を勝てば県大会から出てもらうことになるね。」


 そういって背番号ゼッケンを渡してくれた。20番ラストナンバーだった。

「関東大会では本来の番号に戻れるよう頑張ってください。」

ありがとうございます。去り際に監督に

「テレビ出演だそうですね。楽しみにしてますよ。」


えっ?なぜそれをと思ったが小原記者ユカさんが画像や動画を学校に借りたと言ってたから当然報告はあるわな。俺は曖昧な笑みを浮かべ一礼した。



  俺の出演する番組の放映の日はいつも通り10時に就寝。家族は驚いていたが、録画だけ頼んでサッサと寝た。校内放送でも俺のテレビ出演のアナウンスがされて恥ずかしかった。


 いつもどおり5時に起床。ストレッチとジョギングと筋トレをこなしてから朝食しながら録画を見る。


「都市対抗の結果」各章の受賞者をうつしたあと、MCが「おかしなことにきづきませんでしたか?」とふる。ゲストが指摘した若獅子賞(新人賞) 沢村 健(16)の年齢の部分を赤丸で囲み、

「これは誤植ではありません。この沢村選手、まぎれもなく高校1年生なんです。そう、彼こそが今週の『○○王子』なんです。どんな選手なのか動画VTRをご覧ください。」

でスタート。


 「なんとこの沢村君、両投げ両打ちです。埼玉県予選で社会人野球の名門東京通運を相手に、左でも右でも本塁打。4本打って東京通運の補強選手に指名されたんです。本大会でも左に右にと4試合で4本塁打。しかも2本がサヨナラ本塁打と勝負強さも抜群。そして、この当たりです。準々決勝でなんと天井のスピーカーに直撃弾。これはなんと平成2年のブリリアント選手以来の大ホームラン。観客の度肝を抜きました。


 それだけではありません。投手もやるんです。準決勝では8回途中から登板して優勝チームのTKD打線を相手に5連続奪三振。左でも右でも三振がとれる!まさにプロから熱い視線を集めているんです。」

最後俺のコメント。

「終わったら?母校の野球部に戻って甲子園を目指します。」


では沢村君には「両利き王子」の称号を贈呈いたします。」


ンー、ちょっとやりすぎたかなぁ。


 








 

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