3回戦は乱打戦!

 9月2日。練習といっても、準々決勝を翌日に控えているため調整程度だ。差し障りのない場面だけカメラが入る。チームのみんなの気を散らして申し訳なかった。


 インタビュアーは小原さん。綺麗な女子アナが来ると思ってソワソワしていた皆さん残念です。といっても十分綺麗な方ですけど。なんでも来週の日曜深夜のスポーツ番組で放送するらしく、こんだけ録画しても編集したら3分くらいとか。


「あ、評判がよければ他の番組でも使い回すし、あなたが将来甲子園で活躍したりドラフトにかかったりでもしたら出てくるんじゃないかしら。」


 話しは結局どうやって「両利き」になったのかというところだけ。あとは「がんばります」でしめて終わり。まあ俺の話より実際にプレーしている映像の方が面白いしね。そちらは学校の方が貸してくれたそうだ。


 取材が終わって食堂に行って監督やコーチに報告して終わり。

 「しかしまあ『イロモノ』枠には違いがないよな。」

そこに居合わせた新人選手が俺に嫌味を言った。俺のせいでベンチを外されたせいもあるのかも。


 「まあそうですよね。打者も投手もやって左右両利きでついでに16歳ですからね。」

俺が苦笑まじりに答えると

「ばか、『イロモノ』が2試合で2本塁打ホーマー打って2回を完全に抑えて2セーブだぞ。沢村君ケンちゃんがイロモンなら俺たちは『前座』じゃねえか。」

 俺のせいで中軸クリーンアップから外れた小清水さんが庇ってくれた。


「ウチが補強選手すけっとに呼んでわざわざ来てもらってんだからな。お前も頑張って早く(レギュラーに)上がってこい。」

俺のせいでストッパーから外れた岡村さんも加勢してくれた。


 クラブチームの全深谷市のみんなも明日の試合は応援に来てくれるんだそうだ。ちょうど日曜日だしね。


 日曜日なので平日より多くの人が観戦に来ていた。都市対抗ではチーム同士の応援合戦がもうひとつの「競技」のようになっていて、両翼の応援席の最前列に応援ステージが設けられているのだ。そこでチアや趣向を凝らした応援が毎試合繰り広げられているのだ。


 「競技」というのは統制のとれたマナーの良い応援でチームの勝利に貢献したり、郷土色豊かで素晴らしいアイデアを盛り込んだ応援、という基準でトップ賞(最優秀賞)や優秀賞の表彰があるのだ。「企業」を母体としたチーム同士の試合ならではだ。


 そして、ベンチの中に「マスコットガール」がいるのだ。毎年、東運の美人社員が務めているそうだ。チームの攻撃中にベンチの前に立って応援し、本塁打を打って帰ってくると熊のぬいぐるみを渡してくれる。選手はそれを応援席に投げ込むのだ。


 今年のお姉さん、たしかに綺麗な方だった。だが、なんか俺の方をちらちら見るもんだから俺ってモテ期?と思ったら隣りで大窪さんとアイコンタクトしていやがった。


絶対に怪しい。チームが守備の時はベンチにはいってるんだけど、俺の方には一切目もくれず外野の大窪さんの方ばかり見ているので間違いなさそうだ。


 準々決勝。応援席は背中側だから全深谷市の連中みんなが来てるかどうかは確認はできていない。試合相手は「光菱無双川崎みつびしむそうかわさき」。神奈川代表だ。バスとかトラックを作ってる会社だったかな。社会人№1遊撃手である渡部尚登わたなべなおとさんを擁する。


 試合前の礼をすると相手チームの選手はたいてい俺をじろっと見てから「思ったよりデカいな」という人が多い。高1だと聞いて背がまだ伸び切っていないのを想像するのだろう。もうちょい伸びるぞ。頑張って寝てるからな。


 こちらの先発は二番手先発の左腕の西川さん。試合の方は完全な打撃戦。2回表に川崎に本塁打で1点先制されると、4番大窪さんの2塁打、小清水さんの2点本塁打ツーランをふくめて一気呵成かせいに4点で逆転!


 だがしかーし。3回表、川崎にすぐに3点返され同点に追いつかれると、その裏、俺と大窪さんが連続ヒット、そしてなんと小清水さん本日2本目の3点本塁打スリーランで再び7対4と突き放す。


 ただそこで終わらなかった。4回表に四球がらみで西川さんが3失点。まさかの7対7の同点に追いつかれてしまう。お互い投手をスイッチ。中継ぎ陣が好投し、今度は打って変わって投手戦に。互いに譲らず9回へ。


 同点のため岡村さんが8回、9回を投げた。7対7の同点タイで迎えた9回裏。打順は3番の俺から。今日は後ろの4番大窪さんと6番小清水さんが大暴れしているのでランナーは出したくないだろう。よって俺とは低めの球で勝負か。


 そして……あれ、まさかの逆球?ここで幸運度アップの魔法が発動したのか。十分にひきつけてたたいた球は見たこともない角度で打ちだされる。ガコンという鈍い音がしてフィールドの真ん中にボールがポトリと落ちた。中堅手センターがそれを拾って三塁に送球。


悠々と走りこんだ俺にタッチ。

「アウト!」


え?

ベンチから血相を変えた監督が飛び出し抗議を始めた。


 

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