卒業と新たな挑戦への序曲。
俺は3月のはじめに帰国した。中等部の卒業式に出席するためである。家族とは半年ぶりの再会である。
「おお、身体がずいぶんとでかくなったなぁ。」
父は俺の成長を無邪気に喜んでくれた。母も無事なる帰国を喜んでくれたのだが。
「パパ、『でかくなったなぁ。』じゃないわよ。健、あんた制服はどうするつもりなの?」
いや、身長は3cmくらいしか伸びてないから大丈夫でしょ。と、思いきや母のおっしゃる通りでした。腕が上着の袖を通らんだとぉ!?そうか、背筋は昔からそこそこあったけど腕、肩まわり、胸にも筋肉がついたからだ。これでは袖を破らないといけないな。
「そうだな。それもどこかの『世紀末覇王』みたいでいいかもな。健から健シロウに名前変えとく?」
「世紀末って新世紀はじまってまだ10年経ってないでしょうが。まだなんとか式に間に合うから今からパパとヨウカドー行って作ってきなさい。」
「ママ、わたしも一緒に行ってくる。」
やれやれ、とんだ出費だぜ。制服なんてずいぶん久しぶりだったからな。
帰国翌日、俺は亜美の家を訪れた。さすがに今回は家に上げてもらえた。リビングだけどね。そこに待っていた亜美。俺を見て最初の一言。
「でか!」
まあウエイトトレーニング始めたからね。体重も5kgは増えたよ。
「アメリカどうだった?」
「質問がおおざっぱすぎるわ。」
俺がお菓子のお礼やアカデミーでの話をした。亜美のお母さんからは改めて亜美を助けてくれたことへの礼を言われた。事件の内容が明らかになるにつれて、俺も亜美も巻き込まれただけに過ぎないことを理解してもらえたようだった。
亜美は終始ゴキゲンだった。
「わたしね、今年のワールドカップの代表
「それすごいな。松崎選手、自信のほどは?」
「自信はあるんだけど緊張しそう。」
「緊張って言ったって亜美なんか最年少組なんだから思いっきりやればいいだけじゃん。大学でるまでだけであと4回もチャンスあるんだぜ。失敗したって次があるじゃん。」
「むぅーーー。他人事だと思ってー。私は4回全部出たいもん!」
確かにすごい自信だ。
「じゃあおまじないかけといてやるよ。そのヘアピンに。」
「うん。」
素直に亜美は頭を下げる。目の前にはあの日のヘアピンが。きっと俺を迎えるにあたってわざわざつけてくれたのだろう。俺は「怯え」「混乱」の「解除魔法」を
「これに手を触れて『健タン、ラブラブ』と唱えるとあら不思議、心から緊張感が解け、なにごとにも動じなくなります。」
「眉唾すぎ。そのキテレツな呪文はどうにかならないの?」
「なりません。てかキテレツとかひど過ぎ!」
帰り際、亜美のママが笑顔で言う。
「よかったわね、亜美。」
「なにが?」
「沢村君。この子ずっとあなたに会えるのが楽しみでチャイムが鳴るまで緊張してたのよ。」
「してないもん。」
「それに……、沢村君のおかげであなたがなんだか普通の女の子に見えるわ。」
「失礼ね。普通に女の子ですけど。」
きっと身長170cmオーバーの亜美のサイズが俺が隣にいると平均的な女の子に見えるという意味なのだろう。
俺は亜美の家を辞した。亜美もガンバレ下克上!15歳でワールドカップか。
新調した制服で無事に卒業式を迎える。今年も半分くらい、12名の部員が別々の高校に進学する。もちろん4月から同じくらいの数の入学予定の部員がいるのだ。青学の甲子園制覇の影響でますます県外からの志望者が増えているのだ。
秋からは正式に俺のライバルに、いや俺が彼らのライバルとして復帰することになるのだ。それまではどうしようか。アメリカに渡ってアカデミーのみんなとフロリダ南リーグやサマーリーグに参加して夏の祭典エリアコードゲームを目指すのもいいなぁ。
エリアコードゲームってのは全米からエリート高校生が1か所に集められてメジャーリーグやNCAA1部の大学のスカウトの前で試合する全米最高峰のショウケースだ。
「中等部卒業生、沢村健。至急理事長室まで。」
ケントからの突然のお呼び出し。なんだろう?
「健、今週末、つきあって欲しいところがあるんだが亜美とデートかい?」
いや、そんなに約束をちょくちょく取り付けられるわけないでしょう。
「じゃあよろしく。」
週末、ケントに連れていかれたのは利根川の河川敷。ここに来るのは父親に連れられて通っていた以来3年ぶりだ。これからいったい何を?
「これからキミに
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