硬さでは負けない!?(ホームランダービー決勝)

 「俺の目標はまずプロ入りですね。何しろこんなところで借金作りまくってますから。」

「いくらくらい?」

「流石に額まで言えませんけどね。」

アカデミーの学費と寮費、飛行機代やらトライアウトの参加費、ホテル代なんか含めると軽く片手500万円は行きそうなのだ。これ謹慎期間の夏までいたら1000万近くなりそうで恐ろしい。


 ドラフト1位とは言わないがケントに借金を、両親に余計にかかった学費を返せるくらいの契約金が欲しいのだ。そう、そのためならなんだってする。怖いものは怪我くらいなもんだ。


 「やるじゃないかケン。」

決勝に残ったアダムとドミニクが俺のところに寄ってくる。もちろん、あつい友情ではなく、ライバルとしてだ。

「決勝では負けないぜ。」

「おう、こっちも全力で行くぜ。」


 そうだな。勝負の世界だからこそ過度の謙遜は嫌味でしかない。むしろ互いに刺激となった方がいいのだろう。


 ホテルに帰るとサムと今日のバッティングフォームのおさらい。サムが俺のフォームの変化に気づく。

「少しアッパー気味だね。キミはきれいな水平レベルスイングだったけど。」

「いけませんかね?」

俺も命中率アップ魔法と一撃魔法の重ねがけの通りに動いているので自覚はない。


「いや、キミもウエイトトレーニングを積んで筋肉がついてきたからね。もともとミートはいいんだからパワーがついてきたら実戦でも試してもるといいと思うよ。」


 そうか、俺もついにパワーがついて来たか。前世の時から俺の身体は日本人の割に上体は筋肉つきやすかったから結構いけんじゃね。


そして12/30の決勝を迎えた。大学生たちがこちらをチラチラ見ている。

「まあ俺たちはエリートだからな。あいつらと違ってNCAA一部との入学確約コミットメントを目指しているわけだし。」

「アダム、声がでかいよ。自分で自分のことをエリートとか言うか?普通。」

ボビーさんと違って実力に裏打ちされた驕慢きょうまんさだけに始末に負えない。


「何言ってんだケン?事実は事実なんだから仕方がないじゃないか、だいたいそう言うお前が予選で全体の『最長不倒』を出したの忘れたのかよ。」

ドミニクが追い討ちをかける。そう、全ての年代をひっくるめて俺が一番飛ばしたのだ。

「そうだぜ。『太さ』の白人と『長さ』の黒人からしたらお前の『短小』ちいさな身体からでるパワーが不思議でならないぜ。」

「だからそれが『硬さ』なのさ。」

確かに魔法のおかげだが俺もそれなりに「シコシコ」頑張って……いやだ、アダムのセクハラ思考に侵蝕おかされてる!


 俺は予選の時とは逆に最初に右打席で木製バットで3分。インターバルを挟んで左打席で金属バットで2分。本数も飛距離も延ばしての優勝を飾ることができた。


 だって今回は俺の好みを知り尽くしたサムが打撃投手バッピだったし。


「来年は絶対リベンジしてやる。またここで会おうぜ。」

ドミニクはすっかり打ち解けていた。デレ期早いわ。

「まあ俺に金があればだな。次は650フィート(約200m)越してやんよ。」

これは本心。多分、いや絶対来れないでしょう、金銭的に。


 アダムはアダムで

「お前の『硬い●●ハード●ック』にはたまげたぜ。またリーグ戦でな。」

いい加減下ネタから離れろよ。金属バットと普通に言えんのか。

「おお。」

 安請け合いしてしまったが、すでに3月に一旦帰国するようにケントから指示があったのだ。


 青学高等部は北関東の秋季大会で優勝して、春の甲子園は確実になっている。弟分の中等部リトルシニアでも安武トラ小囃子ミッツ帯刀イッシーが攻守共に軸となって春の選抜の優勝候補筆頭の呼び声高い。


 年が平成18年に改まる。フロリダは冬も温暖でトレーニングも練習も順調にできた。

そんな時、亜美から久しぶりに手紙が来る。


「パワーショウケース初代チャンピオンおめでとう。こちらでは地元限定で話題になりました。」

 多分ケントの画策だろうな。あるいはユカさんのおかげかな。

 しかも日本のお菓子セットと共に。うわ、神様亜美様仏様ありがとうごぜえますだ。ついでにスポンサーの亜美のご両親様ありがとうございます。


 バレンタインの「義理チョコ」だそうである。せっかくだが一人で楽しめそうにない。なにしろアカデミー宛ての荷物は危険物がないよう検査、開封されるからな。中身の情報はすでに漏れているはず。


 案の定ドアを激しくノックする音。完全に突入捜査でもする警官隊の気分なんだろう。

「ケン、中にいるのはわかっている。貴様が入手した違法な密輸品ブツについて話がある。」

いかがわしい表現すんな。

「OK、OK。今ドアをあける。」

ドアを開けるとそこには警官隊どころかゾンビの群れだった。


「ここでお菓子パーティがあると聞いて。」

俺一人でやる予定だったんだが。くっそ、ハロウィーンの時に実家から送ってもらった菓子で餌付けしたのが間違いだった。こいつら「量が少ない」って文句を言うからな。だから「質が高い」んだろうが。


 後ろでサムが苦笑を浮かべながら立っていた。


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