夢とボールの飛距離(ホームランダービー予選)
「ユカ、この子がケン・サワムラよ。
「やめてケリー、敏腕記者だったら、こんな『どさまわり』なんてしないわよ。」
「沢村です、よろしく。」
オハラという名字はアメリカでもアイルランド系移民の子孫にもいるのだが顔と名前で日本人だと判断して日本語であいさつする。
「小原由香よ。」
そういって名刺を渡される。彼女はアメリカでも珍しい「女性スカウト」の密着取材ということでケリーさんに同行しているそうだ。
女性のスカートは珍しくないけどな、ぷぷ。親父ギャグを脳内で反芻してから俺は準備がありますので、と離れることにした。
出場名簿を見た限りNCAA1部の有名大学の選手がほとんど出場しないため報道関係者もまばらだったので小原さんの黄色い
むしろ高校3年生まで世代の方にエリートたちがそろっている。みんな高い参加費を投じて参加している。なんとかメジャーや大学のスカウトの目に留まろうとみんな必死なのだ。
ここで知らされたのが
ゲームが始まる。俺は2日目の15番目。結構待ち時間があるな。そういえば俺ってこれまで金属バット使ったことなかったなぁ。そこで貸与された金属バットを試しに振ってみる。ここではスポンサーの企業のバットの使用が求められるのだ。
白人の兄ちゃんと目が合う。なんかむちゃくちゃこちらを気にしているようだ。俺が振っていると今度は黒人の兄ちゃんが俺の近くでバットを振り始める。俺とさほど背丈は変わらんが筋肉がムチっという感じだ。バットに当てたらさぞかし飛ばすだろうな。
黒人の兄ちゃんは試合で何度か顔を合わせたことがある。別のアカデミーの選手でフロリダNo.1の三塁手と言われるアダム・ジャクソンだったかな。「鑑定」して名前だけでも確認しておこう。
「ハイ、ケン!調子はどう?」
フレンドリーの話しかけてくる。
「ぼちぼちでんがな。」
南部訛りを入れて返すと真っ白な歯を見せて笑った。暗いとこで見たらびっくりするだろうな。アダムは俺に顔を寄せると白人の方を指す。
「あいつはな。ドミニク・ギャレットって言うワシントン(州)じゃNo.1の
「そうか、アンタの方を見ていたわけか。別にこんなところに来なくても名門大学やメジャーからオファーが来るだろうに。」
「違うんだって。
「『大きさ(パワー)』は負けるが『硬さ(ハート)』は負けねえよ。」
「そう、その意気だ。」
うーん。言ってることが
決勝に進むには本塁打数上位と飛距離1位の合わせて3名。木製バットで数を稼ぎ、金属バットで飛距離を稼ぐか。
俺の前までにドミニクが飛距離で1位、本数で2位。アダムが本数1位か。
左打席で木製バットを構える。けたたましく鳴り続ける音楽の中、MCが俺の名を呼ぶ。
「ケン・ソーエイミュラー、フロムジャパン!」
ローマ字綴りは読みにくいらしい。
サムが充填したボールがマシンから放たれる。このスピードはクラスごとに違うが設定は共通だ。打ち頃の速度。乾いた打球音。低い弾道を描いてスタンドの最前列へ。まずは一本。次から次へと球が放たれ打ち返し続ける。3分は長いな。だいたい30球で柵越えが22本。やっぱり球場が広い。
30秒のインターバルの後、金属バットを持って右打席に入る。金属バットで球を打つのは遊びでバッティングセンターくらいなので新鮮だ。
特有の快音と共に高々と上がる。着地してから次の球が来るので感覚が空く。
4本目の当たりか。一撃魔法が発動。場外へと消える。
「
MCが叫ぶのがウザイ。620フィート(約190m)くらい飛んだらしい。文句無しの本数と飛距離で決勝に進む。
観ていたケリーさんも大興奮。俺を抱きしめというか、ほぼヘッドロックで髪をわしわしするのやめて。
ユカさんは冷静に
「ずいぶんと飛ばすものね。」
「そうですね。マシンの球ですから素直に飛びますね。人間相手はこうはいかないですが。」
「あなたの目標は何?」
俺に興味があるかと思いきやケリーさんの取材の延長線らしい。確かに日本人読者としては「メジャーリーグの女性スカウトが日本人の金の卵と出会った」というのは読みたくなるわな。
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