ギリギリ……
「ゴンザ……くん?」
「ゴンザ言うな!俺はアキラ・スズキだ!」
春の選抜の1回戦で対戦した選手だった。審判に対して暴行事件を起こしたあの後味の悪い光景が脳裏をよぎる。俺は臨戦態勢をとったゴンザ君に
「な……ぜ……こ……こ……が……わ……か……っ……た……ぁ!?」
なに言ってるか聞き取れない。俺は相手にせずに亜美にかけよる。亜美が恐怖に身をよじらせる。
「亜美、もう大丈夫だ。俺だ。助けにきた。怪我はないか?」
目隠しをはずすと恐怖でひきつった顔で目に涙をいっぱいにためた亜美だった。よかった。間に合ったか。ロープと結束線で拘束されているためほどくのに手間どる。亜美が恐怖でじたばたするのもある。俺はやむなく混乱と怯えの解除魔法をかける。やっと彼女の身体が
携帯の画面で時間を確認するとギリギリ試合に間に合いそうか。加速を使って走れば何とか。このまま亜美を抱きかかえて逃げるべきか。それも変に目立ってしまう。なんとか拘束だけでも。
しかしもたついている間に、物騒な物音に不安を感じた近所の人の通報で駆け付けた警察官が踏み込んできた。つまり「試合」の方が終了してしまった。
「少女から手を離せ!」と拳銃を構えた警官。加速と倍化魔法で逃げられるがその後がもっとめんどくさいことになるのは確定だ。
「こ、この人は私の友達で、助けに来てくれて。」
落ち着きを取り戻した亜美が説明してくれるも俺は手錠をかけられる。まぁ、警官も最初の場面から見ていたわけじゃない。
亜美は救出され病院へ救急搬送。俺にのされた4人の屈強な男たちも救急車で運ばれた。あーあ、失禁してるよ。狭い部屋がいやな臭いで充満していた。
当然ながらゴンザも俺も警察へと連れて行かれて事情聴取。亜美を回収して試合に戻ると言う俺の目論見が見事に外れてしまったのだ。
そりゃ「誘拐監禁」なんて重犯罪だもんな。別の通報者である香奈先輩の証言も含めて俺がゴンザくんの仲間ではないことは証明されたが、勝手に救出に動いたことでこっぴどく叱られた。聴取は長引いて夜までかかる。状態異常の設定が2時間だったため、警察が俺が薬品かなにかを使ったとみていたのだ。ただどれだけ俺を身体検査しようがなにもでない。
その夜、ケントが警察署まで面会にやって来た。ケントは日本の弁護士資格も持っているため、俺の弁護につくのを俺の両親から了解をとって来てくれたのだという。
「ご迷惑をおかけしました。あの……。」
「思い出すね。あの時も僕と君の二人だけで亜美たちを助けに行ったっけ。」
ケントは思ったより穏やかで嬉しそうな表情をしていた。
「もう少しで家に帰れるよ。」
それよりも俺は試合の結果の方が聞きたかった。聞く権利がないのは知っていたけど。ケントは言った。
「残念ながら準優勝だったよ。7対3。でもそんなことはどうでもいい。二人が無事でなによりだった。それは優勝よりよほど大切なことだ。君のやり方は正しくないところも一部あったが、君の決定は間違ってはいない。私は君の決定を支持する。」
ゴンザたちは自分たちが無罪で被害者であることを主張していたようだが、亜美をさらい、なおかつ拘束していたのは明白なので、俺に正当防衛が適用されるかどうかが問題になるらしい。まあ俺が魔法を使ったとは誰も思わないし、暴力に訴えなくて正解だった。
「相手は拳銃も発砲した上、きみのユニフォームに切りつけた跡もあるから言い逃れはできないだろう。まあ、私にもいろいろと『コネ』があるのでね。きっちりともみ消してあげるから安心して。」
これはのちになって明らかになったことだが、ゴンザの犯行動機は審判に対する暴行で彼が3年間の資格停止処分になったことを恨んでのことらしい。完全なる逆恨みだ。俺に対する憎しみと処分に対する不服が昂じた末の犯行だった。父親が
ただなぜ亜美と俺との関係性を知ることができたのかは不明だそうだ。ゴンザくんの供述では二人が恋人関係であることはすでに知っていた、ということらしい。記憶の改変なんだろうか。間違いなく「魔王の欠片」の影響だろう。
ケントと一緒に警察署を出ると両親が待っていた。俺は深々と頭を下げる。俺はあくまでも未成年。暴走すれば迷惑がかかるのは親だ。
「父さん、母さん、心配かけてごめん。」
一発くらいは
「あれは仕方ないな。野球選手としてはあるまじき行為だが、男としては決して間違いではない。きっと父さんがお前と同じ状況だったら同じことをするだろうし。」
両親は俺を抱きしめて迎えてくれた。
チームのみんなはなんていうだろうか?
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