2位じゃだめなんですか?
いちばんきつかったのはチームメイトに謝罪した時だった。人生初の土下座。ただ、ケントから事前に詳細な説明があり、「幼馴染の少女」を助けるためのやむない行動だったことは知らされていたのだ。
ただ、これは対応が真っ二つだった。胆沢は激怒してチームから出て行け!と怒鳴り散らしていた。だがこの事件の発端は、お前の意思ではないとはいえ、お前の中に宿る「魔王の欠片」がお前の意識下の感情を受けて暴走した結果なんだが。
一方で俺と亜美のことを知る後輩たちは俺を庇う。
「悪いですが、
学校の理事会は俺の処分として「部員資格停止1年」を決定した。これは家裁で俺の処分が決定するまでの仮の処分だ。
理由はどうあれ俺が試合前に無断で逃走したのは事実であり、しかも正当とはいえ、反社会勢力といざこざを起こしてチームを危険にさらした。それは十分に罰せられるべき事由であったからだ。
俺は亜美を見舞いに退院後を見計らって彼女の自宅を訪ねたがさすがに会わせてはもらえなかった。その晩、亜美からメールが来ていた。
「助けてくれてありがとう。」
という題だった。さらわれて怖かったことや心細かったこと、俺がすぐにかけつけてくれて嬉しかったこと。そして、結果として俺が部員資格停止処分を受け、来年の甲子園の予選すら参加できなくなってしまったことを申し訳なく思っているということだった。全部亜美のせいなんかじゃない。
だから今回、俺からの交際の申し込みは受けられない、ということだった。これから3年間はお互いに友達でいて、お互い野球に集中する。三年生の夏が終わったら、いや終わってもまだ俺が自分のことが好きだったらもう一度、今度はきちんとした形で告白して欲しいというものだった。
え……また俺から「告白」するんですか?しかも「きちんと」なんですね?
恋愛に関する女子のシビアさハンパねぇ。
ケントのコネの威力かどうかはわからないが俺は家裁で「不処分」を勝ち取ることになる。刑事裁判で言うところの「不起訴処分」、つまり裁判を待たずして「無罪」が確定したのだ。だって俺は暴力「は」ふるってないしな。
そのためどの野球団体も俺を罪に問うことはできなくなった。とはいえ胆沢の親父さんをはじめとする父母会も俺に対する不処分は受け入れ難いようだった。それであの部員資格停止1年という割と重い決定がそのまま確定してしまったのだ。
つまり俺は基礎的なトレーニングはできても学校で野球ができないことになってしまったのだ。
一方、めでたいことに青学は初出場でいきなり夏の甲子園を制覇したのだ。もちろん県勢では初めてのことだ。俺は祝勝会の後、山鹿さんたちに呼び出される。
「で、
「
「
いや、告白もろくに言えずにダメ出しされるヘタレですが。
伊波さんが笑って説明する。
「だってこいつは
殴ってないです。野球選手は指が命なんで。
山鹿さんがさらに加える。
「なにしろ中学生にのされたなんて知られたら、なめられて
住居さんがニヤリとして言う。
「なるほどそれで無罪になったんだ。怖すぎぃ。」
あーあーあーキコエナイ!もういじるのはやめて!俺のSAN値はもう0よ!
「俺、短期ですけどアメリカに留学しようかと思うんです。」
「はい?」
俺の答えに一同耳を疑ったらしい。
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