俺氏、野球を始める。
父に連れられて俺は地元のリトルリーグに参加することになった。ここは前世と一緒の流れだ。久しぶりに見た光景、いや、20年前とは違うのは参加する子どもの数が減ったということだ。サッカーの人気の影響もあるかもしれない。
いっそのこと胆沢もサッカーの方に流れてくれればいいのにと思っていた残念ながらこちらのようです。まだ俺のことは眼中にないようだ。
リトルリーグはチームが3階層になっている。投手無しでバッティングから始まるティーボールリーグ。これは幼稚園から低学年の児童が参加する。そして中学年の児童からなるマイナーリーグ、そして高学年の児童と中1(夏まで)からなるメジャーリーグである。
俺は亜美の姿を探した。いるいる。まるで小動物のようにボールを追っている。俺の前世では5年生でから2番
「亜美、アップのキャッチするか?」
昭和の頃は名字の「松崎」で呼んでたのに平成では名前呼びか。亜美は嬉しそうに応じた。彼女とは同じ小学校だがクラスは別だったのだ。家も彼女の家は俺の家と比べると学校から半分くらいの距離で、この日以来下校も途中まで一緒になることが多くなった。昭和の頃は女子と一緒に下校なんてしたことなかったのにな。
俺と亜美と胆沢は2年生でティーボールリーグでレギュラーに、3年生の夏休み明けにはマイナーリーグにそろって昇格していた。胆沢は本格的に投手を目指し、俺が二塁手、亜美が遊撃手。俺は前世の経験値もあってすでに上級生より優位に立っていた。亜美の場合、女子は男子より成長が先んじるのを差し引いてもその守備と走塁のスピードとセンスは頭抜けていた。
3人の抜擢を受けて最初は胆沢が俺たちのリーダー格として扱われていた。
「俺のバックを守らせてやる」という自信満々な態度に亜美はムカついた感じだが俺は微笑ましく感じた。もちろん「年上の余裕」がそうさせているのだが、俺がやつの「手駒」であるうちは「魔王のカケラ」も暴れないだろうと踏んでいたこともある。
胆沢も年の割に大柄な体格を活かしたピッチングで、俺たちが4年の頃には5年生の上級生と共にマイナーリーグの全国大会で優勝を果たしたのだ。だんだん前世の俺とかけ離れてきたと言える。
亜美と俺の鉄壁の二遊間は他のチームの監督たちからも絶賛された。ただ亜美に関しては
「そっか、女の子かぁ。⋯⋯もったいないなぁ。」
という反応が多く、彼女を苛立たせてせいた。
「やっぱり女子ってプロにはなれないのかなぁ。」
ぼやく彼女に俺はなんと答えていいか迷う。技術やセンスは絶対負けてない。ただ大人になってもパワー上がらないんだよな。日本の男だって偉そうにしてるけどパワー不足がたたって内野手としてはメジャーで通用してないからな。
それに、今は女子野球もだんだん競技人口も増えているから俺たちが大人になる頃には女子のプロリーグができているかもよ。でも、今の時点の亜美は絶対に99%の同世代の男子より上手いから。俺の世辞抜きの論評に彼女は嬉しそうに頷いた。
そして、俺と亜美はこの優勝を飾った大会での優秀選手にも選ばれた。ただ胆沢は選ばれなかった。そこが彼にとってショックだったのだろう。
胆沢の俺たち対する目つきが一変したのを俺は察知した。胆沢にとって俺たちは「手駒」から「敵」に変りつつあったのだ。
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