最初の下克上!?

 5年生の初めに俺たち三人はついにリトルリーグの「メジャーリーグ」に昇格する。北関東連盟の大会で優勝して全国選手権大会の切符を手にした俺たちは夏休みの本大会に向けてトレーニングに励んでいた。


 そんな時に胆沢に彼の従兄弟が高校野球で投手をやっていて自主練を見てくれるので付き合えと言ってきた。ついにキタコレ。ここで断っても後が気不味くなりそうだし。いや、最近やつの機嫌を損ねて暴走車に突っ込まれそうになったばかりだし。なにしろ今の俺には対策がある。俺と亜美を含めた5年生のメンバーが数人付き合うことになった。


 そして昼飯をかけた俺と胆沢の対決が始まった。先攻は胆沢。

「センパイすんませーん。俺ら小坊ガキなんで手加減お願いしまーす。」

俺の方から高校生に先に声をかけた。これなら胆沢に手加減する言い訳になるし、たとえ俺に打たれても「手加減」の範疇はんちゅうであり彼の面子を潰すことにはならないはずだ。


 結果、先攻の胆沢は三本のヒット性の当たりが出る。さあ来たぞ、俺はヘルメットを確認する。

「沢村、そういやなんでお前は木のバット使ってんの?」

高校生が尋ねる。そこが前世とは違うところだ。普通は金属バットの方を選ぶ選手が多いからだ。木製バットは折れやすいしね。


 俺は父が野球経験者で木製の方がボールをバットのスポットで捉える練習になるからと教わったと返す。しかし少し生意気だと思われたかも。これはややマイナス。


 俺が初級の真ん中やや低めのストレートを左中間に飛ばすと本気を出し始める。やべ、こちらも手加減したんだが。

「あざーっす。」

 一応フォロー入れる。

次は外角低めをライト線に流すようなヒットを放つ。前世の時よりもしっかりと球が見えている。ここは試してみるか。俺は自分に加速魔法ヘイストをかける。


 相手の動きがスローモーションに見える。ボールの握りもはっきりと。おい、変化球なしのはずなのにチェンジアップかよ。俺の腕の振りは加速されているので普通の打者よりもホンの一瞬長く球を見ていられるのだ。


 俺は体勢を泳がせられることなくしっかりと球を捉えてレフト方向へ弾き飛ばした。ただ腕に痛みを感じる。魔法で加速したから過負荷がかかったのだろう。第二次性徴期で一気に身長を伸ばしたら存分に筋トレしてやろう。今は自動回復魔法をかけておく。


「じゃあ本気度50%パーくらいでいくわ。」

そう高校生が言ったが内心では100%だろう。

インハイにボール気味の球。俺の上体を起こしておいての外角低め。少しボール気味だったが根性でライト線へヒット性のあたり。これで俺の勝ち。 


 最後の一球は⋯⋯カーブかよ。大人気ねー。あらやだ。しかもすっぽ抜けた。というか俺の頭めがけて来たよ。こいつは高校生が悪いというよりは胆沢の「癇癪かんしゃく」が発動したようだ。


「硬化。」

俺は頭部を硬化して防御。ボールがヘルメットを襲ったが⋯⋯。なんと言うことでしょう。いたくな〜い!


「健!大丈夫?」

もんどりうって倒れた俺のところに亜美が駆けつけ、後からみんなが集まってくる。

「ツバに当たったんで大丈夫です。」

俺はゆっくり立ち上がってから言った。


 これで万年補欠のフラグは完全にへし折ったことになる。ただし胆沢の「癇癪スキル」がこれだけでは済むはずはない。これは無自覚魔王の怒りと嫉妬によって引き起こされる攻撃との戦いの日々の始まりを告げた出来事なのだ。


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