第15話 ヤンデレの心眼
「あとはよろしく頼むわね」
婚約披露パーティーから早5日。
馬上から微笑む私は、密かに出かける予定である。
「本当にひとりで行かれるのですか?」
世話役のイスキリ……だった男は、その姿を魔法で私そっくりに変えている。自分に向かって喋るのは妙な感じだわ。
「お姉様、めずらしい素材は焼かずにお土産にしてくださいね!」
かわいらしい仕草で微笑む妹も、私そっくりに変身している。
「あと、ブリリアントスパイダーの光る血液は絶対ですよ」
「そうね、なるべく期待に添えるようにするわ」
これから向かうのは、500年前に魔女だった私が住んでいた家。
鬱蒼と木が生茂る森の中で、結界に守られて今なお昔と変わらぬ姿を保っているだろう。
私に前世の記憶があることは話していないが、魔女の罠を解除する方法を見つけたので「ちょっと行ってくるわ」で通用した。
ただしディークバルドには、仕事だと言ってある。自分が魔女だったことはできればいいたくないから。
不在時間がどれほどになるかわからないので、もし夕方までに日帰りできなかったときのために二人を変装させた。
「「バレると思いますよ」」
そうね。私もそう思うけれど、今はこれしか方法がない。
馬の腹を蹴り、私は颯爽と出立した。
ひとりで街道を走っていると、鉱山の罠を踏破したおかげで、かなり街に活気があることに気づく。
噂は聞いていたけれど、人々が目を輝かせてイキイキと働く姿は素敵だ。
私は魔女だったとき、その醜い容姿から人付き合いをほとんどしなかったけれど、もしも私が勇気を出して人の輪に入ろうとしていたのなら……
ディークと出会えなかったから、やはり過去の私はあのままでいい。
過去の失恋も転生も、すべてはディークと愛し合うためなのだから納得できるわ。
「早く会いたいわ」
彼のあどけない寝顔を思い出し、つい笑みが溢れる。
しかしそれも一瞬のこと。
関所のところに、見慣れたローブ姿の美男子が壁に背を預けて立っていた。
「ん?」
幻覚かしら?
ディークバルドにそっくりなイケメンがいるように見える。
私は彼の前で馬を止め、さっと下りるとまじまじとそのご尊顔を観察した。
「すごいわ。なんていう素晴らしい幻覚。私ったら、ディークが好きすぎてこんなに正確な幻を生み出したのね」
才能と愛の深さが怖い。
そう思って見つめていると、ディークの幻影がふっと目を細めて微笑んだ。
「今日は遠方で仕事だと聞いた。一緒に行くよ」
あ、本物だった。
先回りされていたんだわ。
え、早くない?
私がお城を出たとき、まだ部屋で眠っていたわよね?
目をパチクリしていると、彼はいつもどおりに私を右手で抱き寄せ、額にキスを落とした。
「会いたいというから転移したんだ。もっと喜んでくれないの?」
「え?さっきの一人ごとが聞こえていたの?あぁ、このピアスかしら?それともネックレス?」
「両方」
両方か。
すごいわ、どちらかが壊れてもスペアがあるなんて。そんなに私のことを……!!
感動で涙ぐむ私を見て、ディークは少し照れて目を伏せる。
「ユウナの声は、どんなメロディーより心地いいんだ。会いたいと言われれば、飛んでくる他はないだろう?」
好きー!!!!
なんてかわいい反応なの!?私が喜んでいるのを目の当たりにして、逆に照れるとか……ごちそうさまですっ!!
私は飛びつくようにディークに抱きつき、少し背伸びをしてキスをした。
「ごめんなさい、密かに行こうと思っていたの。身代わりまで置いてきたのに、さすがはディークだわ。イスキリとサリアに謝らなくちゃ」
「あの二人なら会ったぞ」
え?会ったの?
城門で見つかったのだろうか。
「ユウナになりきっていたが、俺に言わせれば魂の色が違う」
「魂の色?」
すごいわ。
魂のレベルで私を判別しているなんて!転生しても見つけてくれるのね!?
胸がトゥンク……ってなったわ!!
ときめきが押し寄せて胸が痛い。
彼はとても幸せそうな笑みを浮かべる。
「さぁ、一緒に行こう。何を隠したがっているかは知らないが、教えてくれなくてもどうせ調べるんだから問題ない。気にしないでくれ」
「ディークったら、私のためにそこまでやってくれるのね」
素材の解析も得意な彼は、私のことを調査する手間を惜しまないらしい。愛情深いところを再確認して、ますます好きになった。
私は彼と一緒に馬に乗り、魔女だとバレてもいいと覚悟を決めた。
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