第15話 待ち伏せ


「ああ、やはりここで食事ですか」


また途中下車して、僕たちはとても古くからある、小さな食堂でお昼ご飯を食べていた。この路線でのルーティーンのようなもので、そこにやって来たのは、最初に会った車掌さんだ。


「ああ、丁度良かったです。ぜひお聞きしたい事があって」


とお父さんが、ちょっと興奮気味に話しを始めると。


「ええ、最近の人工知能は優秀ですから。鉄君のように」


「え? この子よりも大人ですよハハハ」とお父さんは笑った。

するとまたそこに、一人の男の人がやって来た。その人はお父さんの友達の同じ鉄道マニアの人だ。


「やっぱりいたか、復活鉄! 」と昔話が始まったので、僕たちは丁度良いソーシャルデイスタンスというか、車掌さんと二人で、ちょっと離れた席に座った。小さな声で、聴こえないように話し始めた。


「鉄君・・・信じられないけど・・・本当のようだね。どうして鉄君がいるとしゃべるのかな? 」

「僕に話しかけた訳ではないです。保線区の人たちにですから」

「でも・・・それだったらいつだって話せるだろう? 」

「多分、平日の忙しい時には話をしないんじゃないかと思います。今日は再開してから初めての日曜日でしょ? お客さんも少ないし、停車時間も長いからじゃないですか? 」

「おー 鉄君凄いね・・・すごい分析力・・・保線区の人間もここの所ずっと忙しくて、休日返上だったからね」

「あの、保線区の人たちはほかの所にも行きますか? 」

「ああ、この先に復旧するのが一番大変だった場所があるんだ。今日再度確認のために行くことになっている。そこではかなり徐行運転するからね」

「あの、電車の声を、電車の中の人は全く聞こえていなかったみたいですけれど」

「ああ、それは特殊なスピーカーを使っているためなんだ。

でも、鉄君、もしかしたらあの駅で「電車がしゃべるかも」って思ったの?」


「ハイ、保線区の人たちがいた先の駅ですから。もしかしたらと思って」


「鉄君・・・本当に電車が君を選んだのは正しいと思うよ」



 そしてまた電車に乗り、運転手さんの

「この先安全のため、徐行運転となります」というアナウンスが電車内に流れた。

僕はそれと同時に電車の外を見た。そして保線区の人たちが立っている方にある窓に顔を。正確には耳を引っ付けた。

ガタン、ゴトンとゆっくり徐行運転を始めた。この時は自転車よりも遅い速度だろう。

そうしてガラス窓に引っ付けた耳から、かすかに聞こえた。


「皆さん、どうも有難うございます・・・・」


その後はほとんど聞き取れなかったけれど、保線区の人たちの色々な顔が見えた。


ぽかんと口を開けて、電車を見ている人。


「何? 何? 」という声まで聞こえてきそうに慌てた人。


面白い悪戯だと笑っている人。


そして、そこから離れて電話をかけようとする人。


「鉄、何だかすごく楽しそうだな。キジがいたか? でも見たのは反対方向だっただろう? 」


 僕はそのことをすっかり忘れていた。




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