第14話  予感


「どうした? なんだかそわそわした感じだな、鉄」


「ん? そんなことないよ」

駅から少し歩いて、撮影ポイントに僕たちはいた。お父さんの撮った写真に、いつもなら細かい評価をするのだけれど、その日は「いいと思うよ」と僕は繰り返していただけだった。さすがにいつもと違うとお父さんは思ったのだろう。でもそんな僕を助けてくれたのも電車だった。


「あ! お父さん! 水戸岡先生の電車だよ! 」

「お! これは絵になる! 」 

赤、というか、えんじ色と言った方が良いかもしれない。レトロ風の電車がやって来た。この電車にももちろん乗ったことがある。車内に木が多く使われていて、乗った瞬間、何だか落ち着いた気分になれる電車だ。お父さんは夢中になってシャッタ―を切っている。多少ゆっくりと走っているようなので、撮影もしやすかったのだろう。


「天気が悪い分、落ち着いた感じで撮れたな」

「うん、そうだね。電車も走れて嬉しそうだったし」

「ハハハ、どうした、小さい頃みたいなことを言って」


するとちょっと雨がぽつぽつとし始めたので、僕たちは駅へと帰った。小さな駅には、さっき見た保線区の人たち数人が、ちょっと休憩していた。

「ご苦労様です」とお父さんが声をかけたら

「ありがとうございます、撮影にはあいにくの天気ですね」と答えてくれた。そして時刻表通りに、僕たちが乗る電車もやって来て、駅に止まった。ドアが開き、誰も下りなかったので、お父さんと乗ろうとすると


「保線区の皆さん、いつもありがとうございます。土砂崩れの場所も、不安なく走ることができています」


という、エミュー君とナジュム君と同じ声がした。


「え? 運転手さん? 車掌さん? 声が・・・え? 」


お父さんも保線区の人達もそれはびっくりしていたけれど、発車のベルが鳴り響いた後に、大人たちの前で僕はこう言った。


「電車の声だよ、きっと」


「ハハハ! そりゃそうかもしれない。坊や、ありがとう」


閉まったドアから、僕は保線区の人に手を振った。



「今の・・・何だ? 」


お父さんは電車の中でキョロキョロとしている。乗客は何人かいたけれど、電車の声は外に向かって発せられたので、中にはあまり聞こえていないようだった。


「鉄? お前どうしてそんなに冷静なんだ? 」

「お父さん、声が大きいよ」

僕たちの会話に何人かがこちらを向いたので

「あ・・・そうだな」

お父さんは黙ってしまった。


「電車の自動運転システムの試験をするって話があったから・・・まあそれかもな。鉄、お前もそうだと思うか? 」

「うん」

「そうか・・・そうだろうな・・・でも・・・」


お父さんは半分納得はしていたようだった。僕はまた電車の声が聴けたのでとてもうれしかったけれど

「また明日会社だな。今日の帰りに一人で寄るって変かな? でもそうした方が良いかな」とかなり大人びたことを考えていた。






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