第13話 徐行運転
今日の一番最初の電車はこの路線のキャラクターが描いてある電車だった。だからぼくもこの電車をその名前で呼ぶ。そしてここの電車達に名前は付けていない。何故ならこの路線にも僕のように「鉄道好きの男の子」がいて名前を付けているかもしれないからだ。
「こんにちは、運転再開おめでとうございます」
「あ、どうもありがとうございます。鉄君も大きくなったね」
この路線にも車掌さんがいる。お父さんの昔からの知り合いだ。でも今日はどちらかと言うと僕と話をしたそうだった。
お父さんは発車までホームで電車の写真を撮っている。その間、電車の中で車掌さんは僕にこっそり話しかけた。
「鉄君、実は電車がおしゃべりしたことを知ってる人は、ここでは多くないんだ。私と、ほんの数人くらいなんだ。もし同じようなことがあったら・・・あとで教えてもらえるかな? 」
「はい、わかりました」
発車のベルが鳴り、お父さんが僕の横に座った。
「天気、持ちそうだな。鉄は晴男だもんな」
「そうだね、お父さんは雨男だから、今日は引き分けかもしれない」
「三十勝 四十二敗、二引き分けかな、まだお父さんが負けてるか」
「え! そうなの? 数えてたの? 」
「鉄は素直だなあ」
「もう! 」ちょっと電車の中で大きな声を出してしまった。
この電車も最初は町の中を走り、そこから田んぼ、山、田んぼ、そしてまた町で終点になる。
「どこで降りようか鉄」
「どこでもいいよ、お父さん」
父さんは撮り鉄でもあるので、色々撮影場所にはこだわりがある。でも
「今日は曇天だから、さすがに難しそうかな、鉄の好きな所でいいよ」
そう言った。
町を抜け、電車は山に入った。速度を落としての運行になる。そして先の方では線路に保線区の人が見えた。線路の点検をする人たちだ。
「お父さん、次の駅で降りてみたい」
「次の駅? へえ、鉄と降りるのは初めてだな」
何となくそこに行きたいと思った。
この路線はほぼ無人駅だ。単線と言って線路が一本しかない所が多い。でも平日は乗降客が案外多くて、重要な路線の一つだ。
電車は保線区の人の横を通って駅に着いた。休日なので、この駅で下車したのは僕たちだけだった。
「お! 少し晴れ間が出たぞ! これだったら青々とした田んぼと電車が撮れるかな」お父さんは少し興奮して、駅から離れようとしたけれど、正直僕は行きたくはなかった。
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