第12話 蜘蛛の巣
「商店街のお店、どんどんなくなっちゃうね」
「そうだな、日本中こんな感じだ」
商店街のアーケードの中を歩きながら、何となく僕は悲しい気持にもなった。家族で遠くへ電車旅行をするけれど、駅前の商店街はどこも同じようになっている。
「車が普及したからな。電車は下火になるばかりだ」
「でも、鉄道ファンは増えているでしょ? 」
「そうなんだ、で、今の子供はあんまり自動車には興味がないらしい、お前もそうだろう? 小さい頃はトミカでも遊んでいたけれど」
「うん、だって車はずっと乗っているもん」
「まあ、そうだろうな、珍しくはないもんな。逆に電車の方が、ってことかな」
人もほとんどいないので、そんな話をしている声が、アーケードに響くような感じだった。入り口がぴったりと閉じられた商店、時々ある洒落たお店。お店だった部分を改装しているおうち。それを見ながら、僕たちはこのアーケードの切れた先にある駅へと向かった。
雨は小ぶりだったけれど、僕はこの駅前のロータリーにあるものに「抱き着く」のがここ数年の重要な行事になっている。
「お父さん! 写真撮って!! 」
「わかったわかった」
「あ! ちょっと待ってお父さん、蜘蛛の巣がある」
「いいじゃないか、蜘蛛だってせっかく巣を張ったんだから。ハハハ」
僕のすぐ横には大きな銅像がある。この地区出身の引退した大関の銅像だ。この銅像は本物の1.5倍に作られているから、とても大きい。でもこの銅像が出来た時の除幕式で今は引退して親方さんになっている「本物」を見たけれど、僕が今まで出会った誰よりも大きくて、凄く引き締まっていて、とてもやさしそうな立派な人だった。
だからこの駅に来ると必ず、大関と写真を撮って、銅像の蜘蛛の巣を払うことにしている。だって蜘蛛の巣は「毎日」張られているから、誰かがした方が良いのだ。そして僕が払おうとした蜘蛛の巣も「新築」に見えた。ほかの所は本当にきれいで、誰かがきちんと掃除しているのがわかった。
「お! 鉄! ちょっと待て! 」とお父さんがカメラを持ってこちらにやって来た。
「見て見ろ、いつも手と体の間に蜘蛛の巣が張ってあるけど、今日は胸の上にもまっすぐに蜘蛛の糸があるぞ。すごいなあ、立派だもんなあ」
「蜘蛛も測ってみたかったのかな」
「ああ、胸囲が凄いからな、面白いからこれを撮っておこう」
「じゃあ、蜘蛛の巣払いは帰りにするね」
「そうだな」
楽しい旅になりそうな予感がした。
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