第11話 助け合い
「最近は鉄の方がしっかりしていて助かったよ」
電車の中でお父さんは僕にそう言った。数分前駅のホームで
「お父さん、フリーパス券持っているよね」
と言ったら「え! 」という顔をしたので、電車の音が聞こえていたけれど、僕は走って取りに戻ることにした。今朝フリーパス券がリビングの台の中央に花瓶のように置かれているのは見た。お父さんが持って行くと言ったけれど、それを取った記憶が僕にはなかった。
お母さんは僕が走ってくるのをリビングから見ていたので、すべてを察知して、窓から券を僕に渡してくれた。
でもその時には電車が駅に着いていた。
「間に合わないかな、走るのを止めようか」と思ったけれど、運転手さんの半分笑った顔が見えたので、とにかく急いで駅に向かった。
「ああ、本当にこの駅で良かった。休みの日は特に長く止まっているし」お父さんは時間調整のためと思っていたらしいけれど、きっと今日は「僕のため」待っていてくれたのだろう。
二人で電車に飛び乗った後
「向かい合って座るか? 鉄? 」
「そうだね」
電車はブルブル君だった。ブルブル君の座席はちょっとおしゃれだ。一段高い所に二人で向かい合って座ることのできる席がある。広い窓なので、川の上を走るときは、ちょっと怖い気もする。
「ああ、人が少ないな。本当に昔はこの線は大勢乗っていたけれど」
だから、車掌さんが必要だったのだろう。今では車掌さんがいる鉄道は本当に少ないので、この鉄道は貴重なのだ。しかし平日の昼間と土日祝日ダイヤの時は、運転手さんだけのワンマン運転になっている。
だからAIが必要だということなのだ。でも昨日説明を受けたけれど、そのAIはこの最新車両たちには無いそうだ。車体が短いためなのかもしれない。
「ああ、お母さん正解だな。天気が悪くなってきた」
電車に乗って十分ほど行くと、さっきまで晴れていたのに、急に天候が変わって、今にも雨が降りそうになって来た。
「面白いなあ、宿(しゅく)で変わるもんな」とお父さんが言った。
「どういうことお父さん? 」
「この次の駅は街道の宿場町だろう? 丁度そこが昔から天候が変わる場所だったから、ここに宿を構えたんじゃないかと思うんだ。歩いて旅をするから、天候が悪いと特に大変だろう? まあ、これはお父さんの自論、考えだから、あんまり確かじゃないかもしれないけれど」
でもお父さんが言ったことはその日は大当たりで、ブルブル君が白黒の風車のような車止め標識の前に止まった頃には、ぽつぽつと雨が降り始めた。
電車を降りるとき運転手さんに僕は
「ありがとうございます、待ってくれて」
「いやいや、気を付けて行ってきてね、鉄君」
と言ってくれた。
そして「行ってくるね、ブルブル君」と話しかけたけれど、運転手さんがクスリと笑ってくれただけだった。
駅のホームは二階にあって、階段を降りながら僕はお父さんと話した。
「ああ、これくらいの雨だったら、商店街までちょっと走るか、鉄? 」
「それはあの信号の具合次第だよ。確かあそこの信号は長かったよね」
「具合次第か・・・お前も言うことが大人になったな」
「だってちょっとしなきゃいけない仕事もあるから」
と心の中でこっそりと言った。
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