第9話 不思議の理由とお願い


「初めまして、君が鉄君だね」


 鉄道会社で、僕はリモート会議に出席することになった。


「まずは皆さんに謝罪をしなければいけません。本当にすいませんでした。でも僕たちにとっては「ありえない」ことだったんです。こんな言い方で申し訳ありませんが。

鉄君が電車と話している映像を解析した所、何処にもいじくられた形跡が無いことが分かりました。昨日の夜のものも今一応やってもらっていますが、多分同じでしょう。本当に信じられないことですが」


 この人は電車の自動運転システムの開発をしている会社の人だった。そして


「鉄君、私たちからすると、君とおしゃべりした電車たちが、急に新幹線のスピードで走り出したようなものなんだ。わかってくれるかな? 」


「はい、昨日説明は受けました。同じシステムだから、エミュー君もナジュム君も全く同じ声だったんですね。ああ、名前じゃわからないか。車両番号の方が良いですか? 」

車両番号というのは電車の一台一台に付けられた名前だ。大体アルファベットかカタカナ、数字の混合でできていて、一番最後に付けられている数字が「何番目に作られたか」ということを表している。

一般的な鉄道ファンの人はこれが頭に入っている。僕も今ではお父さんと同じくらい、時々お母さんに負けるくらいには知っている。



「ハハハ、気を使ってくれてありがとう。そうなんだよね、二回とも電車が「名前をありがとう」って言っていたよね。一台一台に名前を付けてあげて、そして鉄君はいつも電車に話しかけていたの? 」

「はい、毎日会うので」

「うーん。確かに鉄君に話しかけたくなるだろうね。鉄君は、どうして彼らが「しゃべりだした」と思うかい? システム的には「駆け込み乗車はおやめください」と言うようにしていたんだよ」

「それは・・・僕にはわかりませんが、でも昨日ナジュム君は謝っていたので」

「そうだね、そうなんだよ! あれは人工知能でもかなり優秀なものの会話なんだ。私たちの会社ではそういう研究もしているから、もしかしたら気が付かない間に「入り込んだ」可能性もないとは言えない。あとは天才的ハッカーの悪戯のどちらかだ。とにかく乗客にはあんまり聞こえていないようだから、これが大きな問題になることもないと思うんだ。私たちとしては今の所このまま現状維持ということにして、様子を見たいんだ。だから悪いけれど鉄君、毎日ちょっと話しかけてくれないかい? できれば・・・夜の人の少ない時の方がと思っているんだけれど・・・」


 すまなさそうな感じで言われたけれど、きっと僕が駅のすぐそばに住んでいることをこの人も知っているのだろう。だから


「分かりました、そうしてみます。朝はおはようというだけにします」

「ありがとう鉄君! 電車が君を選んだのはきっと正しい選択だったと思うんだ。それとね、悪いけれど、もう一つお願いがあるんだけれど・・・・・」


さっきよりもっと丁寧に言われた。




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