第7話  興奮の中


「ああ、鉄君、久しぶりだね、大きくなったね」

「五年生になったのか、あんなに小さかったのに」


 僕は会社の大きなソファーに座り、その周りには、ちょっと興奮気味の目のキラキラした感じの運転手さん、車掌さんだらけ。整備の人も何人かいた。

運転手さん、車掌さんは知っている人ばっかりだったし、僕の目の前にいた偉い人も、元々運転手さんだったことも知っていた。その人から


「あの声は何の声かわかるかい? 鉄ちゃん? 」

と聞かれた。


「電車の声、だと思います。もしかしたらAIですか? 」


「さすが、鉄ちゃんだね。実は試験的にある種の人工知能を電車に組み込んでいるんだ。でもね、このAIは、車掌の代わりのようなもので、例えば「駆け込み乗車はおやめください」とか、お年寄りが電車に乗っているのを運転手に知らせたり、というための音声なんだよ。

だから決まった言葉を選んで言うことしかできないようになっている。私も録画されているものを見た時には信じられなくて、すぐにこのシステムを作った会社に連絡したら「詳しい方がつくったおもしろ映像ですね」って言われて、全く信じてくれない。でもこの映像が一切加工されていないとわかれば、きっと驚いて専門の人間がやって来ると思うんだけれど」


「でも今、音声で反応するものは沢山あるでしょ? スマホだって、家の中だって」


「そうなんだよ、でもこのシステムにはその能力というのかな、自由な会話までできるような人工知能ではないんだそうだ。「できるはずがない」そうなんだよ。とにかく、私たちも驚いているんだ。

誰かがハッキングしている可能性もなくはない。その点は困るんだけれどね。でもね、この機械導入して、声を出したのは実は鉄ちゃんのあの言葉だけだったんだ。

それまで何度か「声を出さなきゃいけないタイミング」があったんだけど、作動しなかったんだ。だから「これは失敗作なんじゃないか」とみんなで話していたんだよ」


「とにかく初めて出た言葉が、普通の会話だったから、みんなびっくりしたんだ」

「まあ、でもその相手が鉄君だから、とってもふさわしい気もするんだよ。でもね、正直言うと、僕たちとしてはちょっと悲しい気もするんだよ、運転、車掌、整備と、電車と直接かかわっているからね・・・」


「運転手さんと運転中はおしゃべり出来ないでしょうから」


「おー! さすが鉄ちゃん!! 」


「でも整備中なら・・・」整備士さんが言ったので


「電源が入っていないとおしゃべりできないとか」


「お! それはそうだね! 賢い! 」


そこにいた人達はなんだか「無事解決した」という雰囲気になった。


「とにかく、悪いけれど、このことは内緒にしておいてもらえるかな。鉄ちゃん、真相がわかるまで」


「ハイ」


帰りの電車はグリグリ君で、降りるときに僕は話しかけなかった。何故なら高校生のお兄ちゃんやお姉ちゃんがいっぱいで、答えてくれないだろうと思ったからだった。





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