第6話 不思議な声
「鉄、何考えてんの? 」
「うん、ちょっと・・・」
クラスメートから聞かれるくらいだから、僕はかなり真剣な顔をしていたんだろうと思う。
でも今朝の事を僕は誰にも話さなかった。言っても「嘘だ」と言われるかもしれないし、「運転手さんがものまねしたんだよ」と笑われるだろうから。でもそのどちらでもない。これは実際に聞いた僕しかわからないことだった。
「あの声は、まるで「電車が来ます」ってホームで流れる声のように、はっきりして、でもその声ともちょっと違うようだった。第一あの電車を「エミュー君」と呼び始めたのは何日か前で、運転手さんもまだ知らない。それにあの声はマイクの声じゃない」
何人かの運転手さんと知り合いになり、僕が名前を付けているのを知って、
「僕らも、整備の人間も、最近鉄ちゃんの付けた名前で呼んでいるんですよ」とお父さんは言われたそうだ。
「どうしてなんだろう、ちょっと怖い気もする。僕の家に盗聴器? パソコンのカメラで家の中がのぞけるから、ノートパソコンを使ったら必ず上を折って元に戻している、いや、それよりも駅の監視カメラかな」
学校からの帰り道、考えながらとぼとぼと歩き始めたが、
「そうだ! とにかく家に、駅に行ってみよう! 」
と僕は走り出した。珍しいものを見たような同級生の顔が視界に入ったけれど、僕はかまわず走り続けた。そして坂の上から下りようとしたとき、駅のホームではなくて
僕の通る道に、白いシャツと紺色のズボンの男の人が見えた。
「あ! 運転手さん、あの時の人だ」
坂を勢いよく降りる僕に運転手さんも気が付き、少し歩き始めた。
「こけないように! でも急いで!! 」
今日が今までで一番慎重で、結に見せたいくらいに一番早かったような気がした。
「ああ、鉄君、こけなくてよかった。凄い速さで下りてきて驚いたよ、さすがに慣れているね」
朝の事の方が大変なことだろうけれど、運転手さんはそう言ってくれた。
「はい、でもその・・・」僕は何をどう話していいのかわからず、
「鉄君、今日の事お友だちに話したかい? 」
「いえ、誰にも。言っても信じてもらえないでしょうから」
「それは・・・正直良かった。これから一緒に本社に来てもらおうと思っているんだ。そのことでお母さんに承諾をもらわないといけない。ただね、その・・・お父さんお母さんにも、今度のことはちょっと内緒にしてほしいんだ。悪いけれどいいかな・・・このことが知れ渡ると、大変なことになってしまうかもしれなくてね」
「はい、わかりました」
僕たちはそのまま家に向かい
「鉄道好きの男の子の紹介ということで、社内報に鉄君のことを載せたいんです。取材のため鉄君と本社に行きたいのですが、よろしいでしょうか」
「もちろんです!! 」
お母さんは満面の笑み以外するはずもなく、僕たちは電車に乗り一駅先の会社まで行くことになった。
無料で電車に乗ったのは、五年ぶりだった。
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