最終話 思い出の石と共に

「康太…そろそろ帰ろうぜ?」

 友人の声に気が付いて振り返った。

「え?」

「ほら、そろそろ日が落ちるぞ」

 彼の指さす方角を見やれば、確かに日が大きく傾いている。もう2時間も経てばこの川で望める灯りは、空に輝く月に頼る事になるだろう。

「そうね。わたしも帰らないと」

「そっか」

 最後だからと手にしていた大きな石を川に投げ込む。

「お、一回か。でもあんな大きなのでも出来るもんなんだな…。ああ、俺も珍しい石拾って来たんだ!」

 そう言うと友人はポケットから、女の子が拾ってきた物と同じ石をいくつも取り出して見せた。

「そんなにあったのか」

「あるだけ拾ってきたぞ。もうないと思う」

 それだけ言い終わると、石を全部ポケットにしまい込んでしまう。

「あぢぃー」

「それじゃ、僕ら帰るね」

 珍しい石を少し羨ましく思いながら、僕は女の子に別れの挨拶をする。

「あ、待って」

「ん?」

「俺、先行ってるぞー」

 友人宅は僕の家と違って門限があるので、早く帰りたいのだろう。僕の返事を待たずにスタスタと一人で進んでゆく。このままでは一人で家に帰る事になってしまう。僕は帰り道を知らないのに酷い奴だ。

「これ」

「あ、さっきの」

 彼女が取り出したのは、彼女自身が見つけ出した珍しい石。

「これ、あげる」

「え?」

「わたし、石いらないから…あげる」

 女の子は僕に石を押し付けると「ばいばい」っと言って川沿いを歩き始める。

「なんだよ…」

 僕は友人の後を追い帰路についた。


 あの日、見知らぬ少女から受け取った石は今も僕の手元に残っている。調べてみた所、当時珍しい石だと思っていた物は『黒曜石』だと分かった。昔は狩りの武器にも使われていた子の石だけど、石言葉は不思議と集中力。あの時、川に石を投げ込む事に集中していた不思議な少年という言葉遊びだったのかな。

 彼女との別れの言葉を交わした僕は、橋の上から見た夕日と彼女の後姿をよく覚えている。でも記憶というのは曖昧な物で、僕が忘れてしまった出来事も多くあった。あの日一緒に遊んだ友人の名前もそうだし、石をくれた彼女の顔もよく思い出せない。

「偶には川にでも行くかな………釣りでもしにに」

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思い出せない夏休み 灰猫 @seadz26

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