第2話

屋敷の中に入り、食事していた部屋へ案内させられる


すでに夕刻、日が傾いてるのがわかった


窓から差し込む陽の光は赤く、前の世界と変わらないことを比喩していた


よくある話だ

異世界に連れてこまれたと思ったら現実で、他者の言うことを信じ、洗脳され、社会に害をなす存在へと変貌させる


大抵は妄想を拗らせた間抜けだと世間は評し、排他する


力を持った者、と言ってもそういった人物は武器や道具を使って人々を脅かす


そういった話はよくある方だが…今現在、私がここにいるのはどういう事なのか


そして、差し出された紅茶に菓子を食べている私は今、どういう事なのか?


「では説明しよう。私は公爵という位なのだが、他にも召喚が可能な人物がいる。まぁ、私と同じ位を持つ者だけだが、30人ほどいると思っていい」


最低でも30人、そんな人達が勇者候補を召喚できるとは…


「30人いるとは言ったが、1人につき召喚は5人ほどしか出来ない。最高記録は今回の7人だがね」


偉丈夫公爵の苛立ちの理由が何となくわかった気がする


「1人の公爵につき召喚魔法を使える人数は10人、それ以上いれば素質の高い勇者候補が選定されるが…性格は選べない。つまりランダムだ」


今回は10人だったのだろうか?でなければ偉丈夫公爵が切れる理由が見当たらない


「性格に難があると扱いきれなくてね…あぁ君たちは大丈夫だ、安心したまえ」


「そーっすか…それで、なんで時期がズレたとか何とか言ってたんですかね?」


「勇者の召喚は年に一度と決めていてな、我々貴族では暗黙のルールとして同じタイミングに召喚しようと決めていたのだが…」


ふと、足音が近づいてきた


「入れ」


「失礼します。公爵様、他の貴族様がズラした理由を聞きたいらしいです」


「私にも分からないとだけ伝えておけ、必要ならば面会もしよう」


「承りました」


メイドさんが入ってきてなんか喋ってそのまま出ていった


「話を戻そう…理由や理屈は分からないがズレたことで他の勇者候補に合わなかったのだろう、と推測している」


よく分からなかったが、まぁそういうことだろう


それよりも私は鬼ヶ島くんが気になる

1人だから寂しがってないだろうか?

質問してみよ


「あの、いいですか?」


「なんだい?」


「鬼ヶ島くんは、どうなりました?」


「彼か…済まないが彼は、君たちとは二度と会えないと思ってくれたまへ」


むぅ、知り合いが居なくなると私まで寂しくなってしまう


「彼は教会にある…簡単に言えば能力見分け装置を破壊したことにより罪人となった。原因は不明だが、人間ではない魔物との接触で、装置が拒絶反応を起こし、破壊されると予想している」


「いやいや、こーいうのってステータスがオーバーして壊れたってもんじゃないんすか?」


「力の持ちすぎで破壊される、その可能性も否めないがそれは召喚時にわかることなのだ」


「って、ゆーと?」


「基本は5人召喚され、特殊な形では今回のような7人…だが、1人ということもあるのだ」


「1人とかあるんすね」


「そうだ、そういった者は莫大な力を持っていて装置を破壊したことがあった。故に今回はありえないと推測したのだよ」


つまり鬼ヶ島くんは強い訳じゃなくて、ただ魔物だということで隔離、拘留しているということだと言う


「でも彼は…人間ですよ?」


「魔物に扮した人間だと?」


「そ、それは…」


私は黙ってしまった

彼が人間だと言うのは私しか証明できないし、仲良し3/5人組も彼とは面識がない


前の世界で店員と客だったのだ

互いを知らなくても仕方がない


そして私が庇ったとしても妄言として取られ、最悪同じ牢屋に入ってしまう


「まーまー、ここで言い合っても仕方ないっしょ?そいで俺ら、これからどうするんすか?」


「そうだな…言い合っても仕方がない。この後だが…まずは風呂に入り、そのあと夕食だ。」


よっしゃ飯ー!と盛り上がる3/5人組

お風呂に入れることに内心喜ぶ私


鬼ヶ島くん、ごめん…私は悠々自適に過ごすね


「そして夕飯の後は明日、配属される戦線への配置を説明しようと思う。では────」


パチンと、指を鳴らし公爵は私たちを光に包み、消し去ったのだった


──────────────────


眩しいので目を閉じていると、湯気が顔を覆った


「ふえ?」


情けない声を出し、目を開くとそこは浴場だった


「お、おおお!?」


白を基調とし、お湯に満ちたバスタブからシャワーまで、浴場を照らす光で反射していた


「す、すごい…異世界バンザーイ!」


私は衣服を脱ぎ捨て、肩の凝る乳房を揺らしながらお湯に浸かる


至福のひとときだ

お湯に浮かぶ長い髪の毛と乳房はユラユラと目前を泳ぐ


「ふい〜…髪洗お」


女性の入浴は長いって、多分私みたいな髪長いとメンテナンス大変だからじゃない?


──────────────────


「さあ、お食べ。遠慮することは無い」


風呂から上がってご飯を食べる

相変わらず肉と野菜とパンとスープだが、美味いので良しとする


「話を聞きながらで構わない、4人の配属する戦線が決まった。全員前方だ」


ゴフゥ!と私は吹いた


熱々のスープが吹き出し、仲良し3/5人組の1人にかかる


「アッヅゥゥウウウ!」


「ご、ごめん!!」


「だ、大丈夫かね?!おい!なにか拭くものを!!」


公爵様は魔法で桶と出現させ、氷水を桶に満たす


満たし終わると同時にメイドさんがタオルを浸し、仲良し3/5人組のひとりに渡す


「や、火傷するとこだった!」


「そ、それほど驚くことだったか?月光花よ」


「当たり前じゃないですか!何が悲しくて裁縫職の私が前方に配置されなきゃならないんです!?」


「俺のやけどよりそっちか〜…」

「どんまい(笑)」

「顔焼けただれてねぇか?」

「うっさいわ、そこまでじゃないし」


「…ゴホン!まず裁縫職だからといって後衛勤務は無いとの事だった。他の貴族からも遅れてきた責務を果たせということもあったので…」


「なんで私が…!」


「?、連帯責任という言葉は?」


「関係ないでしょ!?」


「君たちの面倒を見ているのは私だぞ?なので君たちにはそれ相応の結果が必要なのだよ」


「でも…!」


「私に二言はない、これは決定したことだ」


正直いって、これは責任転換だ

公爵も戦線に出るならわかるが、出る気配は全くない


死んだら一族未来永劫恨んでやる…っ!!


「貞子のねーちゃん…顔こえぇよ」


「うっさい!」


こうして私は前方への配属が決まった


──────────────────


寝る時間が迫る中、私は日誌をつけることにした


日が昇り、落ちる前に書く

そうして今回参戦する戦争に何日経つか分かるようにすれば、気が狂うことは無いだろう


日付は…何月何日って書いても仕方ないよね、一日目からでいいや


”今日は鬼ヶ島くんが拘置所と呼ばれるところで後方支援しています。私も後方が良かった”




もはやただの愚痴である

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