赤い箱
@Sumika365
赤い箱
真夏の朝、まだ波の音が安定している時間に、僕は、砂場である島を見つめていた。
その島は私の目の前にあるが、なぜか誰も行ったことがないという。ある昔話によると、その島に向かおうとした商人が船を出すと、突然天気が悪くなり、波に打たれて沈没したそうだ。それ以降、その島を目指す人は誰1人なくなった。でも、それでも、私は見続けた…
そんな私の顔が朝から厳粛だったのか、もしくは顔のしわを何かの餌とでも勘違いしたのだろうか。私の隣に、一匹のカモメが飛んできた。そのカモメは外見で「普通のカモメ」に見えたが、何か普通のカモメと異なるところを私は感じた。
すると、カモメは喋り出した。
「お兄さん、何を見てらっしゃるのですか?」
「島だよ、私の目の前にある理想だよ」
「あの島は諦めた方がいいですよ。空を飛べる僕も昔一回、島の理想を狙って、飛ぼうとしましたが…」
「天気が急に変わって、行けなくなったんでしょ。」
「そうです…あの島はなぜか誰も行けません。ここで見ると手に及ぶ範囲だと思いますが、実際はそうではありません。近くまで行くと、何かの力によってそれ以上進めないのです。」
「わかってるさ、でも、私は行きたいんだ、なんとしても」
この時、私は悲しみに些細な希望が満ちた表情をしていたのかもしれない。カモメは私の島に対する信念を聞いて、聞いてきた
「その島に、辿りつける方法を教えましょうか?」
私は冷静に考えた。
「君はさっき、自分でもいけないって言っただろう。なぜ行き方を知ってる」
それを聞いてカモメは言った。
「実はあるんですよ。大事な物を手放す「覚悟」がある人なら、なんでも可能です。」
大事な物?なんだそれは。私はカモメの言うことに興味を惹かれた。
「と言うと?」
「昔、私の仲間の1人にどうしても島に行きたく、色んな方法を探った人がいるんですよ。そこで、色々と探った結果、彼は自分が大事にしていた「赤い箱」をここに埋めました。そしたら翌日、彼が最後の希望を持って島まで飛ぶと、天気は変わらず、いや、むしろ今までにない安定さで、彼は島に辿り付くことができました。」
私は「赤い箱」と言う言葉に注意をとられて、カモメが言ってた内容の大半を忘れていた。
「赤い箱ってもしかして…」
「そうですよ、お兄さんの想像通りです。みんな、誰もが持っている、刑務所にいる死刑犯でも持っている赤い箱です。」
「それを捨てれば、島に行けるのか…」
「らしいですね…」
私は再度戸惑った。その戸惑いは、学生時代の私が大学の試験問題を解いているような、単純な戸惑いでなかった。私は自分の今後に戸惑っていた。
赤い箱を手放せば、私は今のような状況から解放される。私は自分がこれまで、誰にも話したことがない苦しみからやっと自由になるのだ。
だが、赤い箱を手放せば、私は今後平穏に生きていけるだろうか。相手の感情に寄り添って、適した対応ができるのだろうか。
そこで、私は思いついた。そうだ、そもそもその島に人なんていないんだ。あるのは私のように、なにかの欲望に囚われた、「今」から解放されたい人だけだ。別に赤い箱を捨てて行っても、コミュニケーションを取れと強要されるのはない。
私は覚悟を決めた。
「行くよ、私は」
覚悟を決めた目でカモメを見ると、カモメは私に優しい微笑みをしながら
「お兄さんだったら、そう言うと思いましたよ」
「ありがとう」
そう言って私は自分の鞄にある赤い箱を手放した。そして船を出した。赤い箱を手放してから、私は何かをなくした気分がした。しかし、それが何か、今となっても思い出せない…
一つ確信できることは、その日の船出が異常に安定だったことだ。普段のように、急に波が強くなることはなく、むしろ、「不気味」と言えるほど、波は安定していた。
私は、島に辿り付くことができた。
船を整備して、島の向こうにある「昔」を見てみると、もう消えていた。苦しみも、何もかも…
すると、後ろからある優しい声が聞こえた。どっかで聞き覚えがある声だった。
私は振り向いた。
「待っていましたよ、達也さん」
カモメを見た私は、涙がこぼれた。
手元を見ると、そこには赤い箱があった。
赤い箱 @Sumika365
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