第五章 暴走状態の女幼馴染と担任の先生がいる勇者パーティー(実質コンビ)

第128話 これは、軟禁と言っていいのか?

 外はもう明るくなっていて既に朝ではあるが、店などが開く時間にはまだ少し早いだろう。

 その証拠に、セトロベイーナ宮殿内に人はまばらにしかいない。


 女王様達の朝食の準備などしているメイドや、夜間の宮殿内の監視や見回りをもう少しで終える所なのか、眠そうにしている騎士ぐらいとしかすれ違わない。

 ……すれ違う騎士に眠そうにしてるなとか、偉そうに言っちゃう俺も、眠くてちょっとヤバいんですけどね。


 「あー……眠い……もうちょっと寝たい」

 「朝の早いうちに起きて行動するって言ったのは、私じゃなくてじんでしょ? もう……しっかりしてよ」

 「それはそうだけど……眠いのは眠いんだよ」


 正直、どっかの強豪校の野球部員みたいに、朝五時からの練習とかして来なかった俺にとって、この時間帯はまだ寝ている時間。

 国分こくぶんだって、宮殿内にあるVIP来客専用の部屋のベッドで、今もスヤスヤと寝ているはずだろう。

 では、そんな朝早くになぜ俺と麗翠れみは宮殿内を歩いているのか。


 それは現在セトロベイーナ王国の捕虜で、アルラギア帝国にいる鈴木すずき桃奈ももなとの交換要員となっている寺原てらはら五月さつきを迎えに行くためだ。


 別に朝早くじゃなくても……と思うかもしれないが、寺原はセトロベイーナ王国の人達からの嫌われ具合が半端じゃない。

 女王様からも、連れ出す時は注意して下さいね……? と忠告されるレベル。


 まあ……それは当然だろう。

 正直、セトロベイーナ王国の人達の寺原に対しての態度を俺も責める気にはなれないし、責める権利もない。


 寺原は、元々岸田きしだのパーティーにいた人間だからな。

 自分は何もやっていないのに、どうしてここまで嫌われるんだろう……と嘆いていたが、本当に何もやっていなかったから、嫌われているんだろ? としか言えない。


 「ここかな? 寺原さんがいるって部屋は? 大分歩いたね」

 「いや……嫌われているとは思っていたけど、ここまでとは思わなかったな」


 長い廊下を歩き続け、いくつもの階段を降りていき、トドメと言わんばかりに百段以上はある階段を降りて、ようやく寺原が軟禁されているという地下の部屋に来たが……。

 果たしてこれは、軟禁なのだろうか?


 「何これ……鍵が一杯……。開けるだけでも一苦労しそう。これは、この鍵? あれ? 合わないよ?」

 「いや、この鍵はここに……あ、違うな」


 絶対に寺原をここから逃さない。


 寺原が軟禁されている部屋の扉の鍵の多さは、セトロベイーナ王国民の強い気持ちを感じさせる。

 ……何回も言うけど。

 果たしてこれは、軟禁なのか?


 「もう……寺原さんは一体、何をしたの? こんな場所に、絶対に出られないように閉じ込められるって、よっぽどのことを……」

 「いや、別に何もしてないな。寺原は」

 「本当に? それならなんでこんな恨まれているとしか思えない閉じ込められ方してるの?」

 「……岸田や亜形あたりの虐殺行為とかを見ても、本当に何もしなかったからだよ」

 「あっ……そ、そうなんだ……」


 麗翠もこれが軟禁……? と思ったのか、疑問に思って俺へ聞いてきたが、寺原が本当に何もやっていないことを伝えると納得して、解錠作業に戻る。

 でも確かに、この世界での軟禁ってこのレベルなのか? って思うよな。

 定義を教えて貰いたい。


 ……というか、寺原はどうやってあの時……俺がアルレイユ公国を旅立つ時に、俺の前へとやって来たんだ?

 寺原の持つ女神の加護は、使えそうなのは忌避の力ぐらいで、後はロクな加護がないことを、俺はちゃんと確認している。

 だから、寺原のパーティーメンバーとして、俺に動向したいという頼みを断った。


 麗翠みたいに、元の世界で仲良かったとか、俺のサポートをしてくれるってわけでも、なさそうだったし。

 それに、セトロベイーナ王国に女神の加護持ちが誰もいないってことだけは、避けたかったし。


 「よ、ようやくこれで……全部開いた……」

 「朝からこんなイライラさせられるとはな」


 解錠した全ての鍵を数えてみると、二十個を超えていた。

 もうこれ、軟禁じゃねえよ。

 むしろ、中で寺原が餓死しているかもしれないと覚悟しなきゃレベルの幽閉だろ。


 「じゃ、じゃあ! この扉は仁が開けてね!」

 「なっ……! ずるいぞ麗翠! 扉から離れるなよ!」


 なんだよ……考えていることは同じか。

 全部開いたと分かった途端、扉からすぐ離れるあたり、麗翠の方が一枚上手だけど。

 ……覚悟を決めるか。

 扉を開けたら、餓死した寺原が……。


 な、なんてことは、あるわけないか。

 餓死したら、餓死したって女王様も伝えるはずだし……はずだよな?

 

 そう自分に言い聞かせながら、扉を開く。


 「寺原ー? 入るぞ? ちゃんと約束通り、戻って来たぞ……って、寺原!?」


 扉を開けると、横たわってぐったりしている寺原の姿が目に入った。

 髪もボロボロで、まともな物を食べさせて貰えなかったのか、やつれている。

 あと、部屋じゃなくてこれじゃ牢じゃねえか。


 ……うーん。

 軟禁状態って聞いていたから、すぐに寺原を連れてアルラギア帝国へ向かおうかと思ったけど……。


 「寺原さん、大丈夫だった? ……大丈夫じゃなさそうだね」

 「どうする? このままじゃ、交換要員にならない」

 「私達の家に連れて行って、何か食べさせる? 何かお腹が膨れそうな物あったかな……?」


 予定を変更し、アルラギア帝国へ向かう前に、一旦寺原にまともな食事をさせることになってしまった。

 ……セトロベイーナ王国が、捕虜にこの扱いをしてたってバレると色々とマズいしな。

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