第126話 静観すれば、西の隣国(ボルチオール)は壊滅する
「ジ、ジン様? 何かの見間違い……というわけではないのですか? リベッネを始めとしたセトロベイーナ軍の兵士の戦死体は、国が責任を持って火葬したはずです。丁度今、責任者もいます。アンセル」
「はっ……」
女王様は、俺から伝えられた事実に動揺しながらも、そんなことがあるはずないと思ったのか、アンセルという名前の責任者である、中年のおっさんを呼ぶ。
「アンセル? ちゃんと、全員火葬したのよね?」
「もちろんでございます女王様。責任者である私が、しっかり確認致しました。失礼ではありますが……勇者様の見間違いでしょう」
「見間違いだったら、どんなに良かったか。リベッネの死体は、魔王軍幹部のネグレリアに利用されていましたよ」
「そんなことは、あり得ません! 私はこの目で確認したんです!」
確認ねえ。
あの量の死体が無くなっていることに、気付いていないのに、この目で確認しました! かよ。
だとしたら、その目は節穴過ぎるだろ。
まあ……もしかしたら、この人が確認作業を行った後に、虹の教団の信者や関係者が死体を運び出したのかもしれないから、節穴と決め付けるのは失礼か。
それならもう、全部話すか。
ここまで話してしまえば、この世界に数百万人いるという、虹の教団の信者を敵に回すことになるから避けたかったんだけど……仕方ない。
「……リベッネだけじゃないですよ。藍色の鎧を着た兵士の死体も多くありました。本当に確認したんですか? あなた?」
「だから! 見間違いです! それとも、私達が仲間の戦死体を売ったというのですか!? セトロベイーナの人間に、そんな非道な人間はいません!」
「……非道なのは、虹の教団の奴らですよ。セトロベイーナ軍は疑っていません。なんせ、ネグレリア城にあった死体の山の中には、俺が知っている限りの国だけでも、ボルチオール、セトロベイーナ、アルレイユ、ロールクワイフの兵士の死体がありましたからね。他にも俺が知らないだけで、色々な国の兵士や民間人の死体があったんじゃないですか? なあ? レミ?」
「そうですね。私も見ました。アルレイユ公国……しかも、ネグレリアの城はこの国と隣接した街にあったのに、何故青の鎧を着た兵士の戦死体……つまり、ロールクワイフ共和国の兵士の戦死体があるのか不思議だったんです」
俺と
適当なことを言うな! という人間もいれば、ちゃんと確かめれば分かるはず! もう一度確認しよう! という人間もいる。
「ジン様……それが本当なら、虹の教団の本部があり、王妃が教祖を務めている隣国、ボルチオール王国にわたくしは、確認をさせて貰わなければなりません」
「お辞め下さい、女王様! ただでさえ、ボルチオール王国とは、親書の件で仲が険悪になっていると聞いております!」
「……アンセル? 普段王都にいないあなたが何故それを?」
「街の領主である私なら、そのくらいのことは耳に入ってきます! フィスフェレムもネグレリアもいなくなった今、私達が警戒すべきで回避すべきことは、他国との戦争なのです! 火種になるようなことは、お辞め下さい!」
「そうですよ、女王様。それに今のボルチオール王国、それどころじゃないんで」
危ない危ない、止めないと。
今のボルチオール王国に関わるなんてことをしたら、セトロベイーナ王国までとんでもないことになるよ。
「何故ですか? そんなことを聞かされて、黙っていられません! 抗議の一つでも……」
「アルラギア帝国の次のターゲット、ボルチオール王国ですよ。しかも、俺より強い……シンドーというイーリスに選ばれた勇者も、ボルチオール王国をターゲットにしています。な、二人とも?」
女王様の言葉を遮って、今のボルチオール王国がどういう状況なのか伝える。
この件に関しては俺だけじゃなく、麗翠も
「間違いありませんわ、女王様。現在のロールクワイフ共和国の実質トップである、アルラギア帝国第二王女、オリヴェイラ・アルラギアが話していた情報です」
「私もその場で聞きました」
二人は、女王様に本当だと言いながら、小声で「……シンドー?」と呟いていた。
ごめんね、
後で謝るから、今そこはスルーして。
「アルラギア帝国が、ボルチオール王国侵略に乗り出して、しかもジン様より強い勇者もボルチオール王国をターゲットにしているのですか!? そ、それではボルチオール王国は二人の勇者に狙われていることに!?」
「そうなりますね。もう一人の勇者シンドーは虹の教団に、仲間の死体をネグレリアに売られたみたいで……。ここは、静観しましょう。放っておけば、ボルチオール王国も虹の教団も壊滅状態になりますから」
「……わたくしが、リベッネの死を引きずっている間に、他国は動いていたのですね……あっ、ヴェルディア討伐は?」
「多分、虹の教団を壊滅状態にするついでに、勇者シンドーが討伐しますよ。俺達は出来ることをやりましょう」
その後、俺達と女王様はこの後の方針などを話し合い、順調に終わった。
一つだけ不審な点があるとすれば。
アンセルという中年のおっさんの顔が、青ざめていたことぐらいだ。
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