第125話 あまりにも辛過ぎる事実

 「お久しぶりです、ジン様」


 案内の執事に連れられた部屋に俺達三人が入ると、女王様のセトロベイーナ三世が、笑顔で出迎えてくれた。

 へえ……この部屋が本来女王様が謁見するための部屋か……。


 初めて女王様と会った時の客間と違って、豪華絢爛で護衛の騎士やメイドに執事も、十分なくらいの人数がいる。

 流石、女王様の部屋って感じだな。

 ……残念なことに、初めて会った時と同じぐらい、女王様は今も落ち込んでるけど。


 「……あ、そちらのお二方は?」

 「俺が元の世界にいた頃の仲間……つまり、女神の加護を持った人間です。一人は、テラハラの代わりに新しくこの国を守るので、よろしくお願いします」

 「女王様、始めまして。わたくしは、コクブンと申します。どうぞよろしくお願いします」

 「レ、レミです。私は主にジンのサポート役をします。よろしくお願いします」

 「お二方とも、これからセトロベイーナ王国をお願いします。……あ、いけない。ジン様、魔王軍幹部ネグレリアの討伐、お疲れ様でした。セトロベイーナ王国女王として、お礼を申し上げます。ジェノニアを救って頂き、本当にありがとうございました」

 「いえ、ネグレリアに関しては、俺一人の力じゃないですから。レミの協力があってこそです」

 「まあ……そうだったんですか。レミさん、ネグレリア討伐本当にありがとうございました」

 「いえ……ほとんどジンのおかけですから……私なんて……」

 「…………」


 女王様が、作り笑い……無理矢理なんとか笑っているのを俺達三人は知っているためか、俺達まで女王様につられて、引きつった笑顔になってしまう。

 辛いだろうに……気丈に振る舞って……これが俺達より年下の女の子なんだぜ?


 本当に、立派な女王様だよ。

 残念なことに、これから女王様を悲しませて、更に辛くさせるような事実を話すことになるんだけどな。

 まずは、鈴木すずき桃奈ももなの方から話すか。


 「あの……女王様、今日はネグレリア討伐報告と二人の紹介の他に、アルレイユ公国とロールクワイフ共和国。この二つの国で得た情報や決まったことを報告しに来ました。……その、女王様だけでなく護衛の皆さんや執事やメイドさん達も、今からする話は大変辛いお話もあるので、落ち着いて聞いてください」

 「大丈夫です。フィスフェレムがこの国で暴れていた頃の辛さに比べれば、どんな話でも耐えられます」

 「あ……じゃあ、まず……回復術士のスズキっていましたよね? アイツ、アルラギア帝国に寝返ってました。しかも、セトロベイーナ王国がフィスフェレムの手で、壊滅状態だったことを喋ってたみたい……」

 「何だと!? あの、役立たずが!?」

 「アルラギア帝国に寝返っていた!?」

 「許せん! 情報を流していたのか!」


 ザワザワザワ……ガヤガヤガヤ……。

 ……そりゃ、落ち着いて聞いてくれって言っても、無理だよな。

 死んだと思っていた人間が、実は生きててしかも裏切ってました。

 なんて話を聞いて黙っていられるわけがない。


 「落ち着いて話を聞きなさいと言ったでしょう! ……ジン様、それは本当ですか?」

 「ええ……回復術士のスズキと呼ばれる女と言ってましたからね。スズキ・モモナとみて間違いないでしょう。……しかし、アルラギア帝国でもやらかしたみたいで、信用を失っているようです」

 「へっ! ざまあねえな!」

 「いい気味だぜ!」

 「落ち着いて聞きなさいと言っているでしょう! 追い出すわよ!」


 嫌われすぎだろ……鈴木桃奈。

 無能で役立たずだったくせに裏切った奴だから、しょうがないと言えばしょうがないんだけどさ。

 アルラギア帝国でもやらかしたって話をした瞬間、護衛の騎士達がみんな喜ぶって……。


 「あ、あー……それでなんですが。今、捕虜にしているテラハラがいるじゃないですか? 実はロールクワイフ共和国で、アルラギア帝国の王女と会ったんですけど、遠回しにスズキと交換してくれないかと言われまして……もちろん、セトロベイーナ王国には得になるよう、俺とレミが交渉してきます」

 「テラハラと交換ですか……」

 「もちろん、不満があるのは分かっています。ですので、スズキの女神の加護は俺が女神の黒イーリス・ブラックで奪っておきます。その気になれば、皆さんが彼女を処刑出来る状態にしておくのをお約束します……この条件でどうでしょう?」

 「この中に、ジン様のご提案に反対という人間は……いないみたいですね。分かりました。テラハラとスズキの交換を認めましょう」

 「ありがとうございます。女王様」


 よしよしよし。

 ここまでは順調だ。

 特に問題なく、伝えたいことやお願いしたいことが上手く伝えられた。

 さて……最後にして、一番の問題を伝えるか。


 「あの、もう一つあるんですが。この国って、虹の教団の信者ってどのくらいいるんですか?」

 「……虹の教団ですか? どのくらい……詳しくは知りませんが、数万人ぐらいかと。……それがどうかしましたか?」


 言うしかないんだ。

 ああ……胃が痛い。

 でも、言うしかないんだ。


 「実は、虹の教団がネグレリアに人間の死体を売って、金に変えていたみたいなんです。……そして、その中にはリベッネの死体もありました」

 「……えっ」


 ああ……やっぱりダメだったか。

 部屋の空気が、一気に変わってしまった。

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