第124話 リベッネが殺された日の話

 「ここがセトロベイーナ王国の首都、チェンツオーネか……やっぱり首都って感じだね」

 「ふっ……まあ、ラルンハーセスよりはマシな首都かしらね? 立派な宮殿だわ」


 国分こくぶん麗蒼れあ達のパーティーから引き抜いた翌日、俺達三人はセトロベイーナ王国の女王とこの国で捕虜となっている寺原てらはらへ会うため、宮殿のあるセトロベイーナ王国の首都、チェンツオーネに来ていたのだが……。


 正直、言っていい?

 ちょっと見ない間に、大分雰囲気変わり過ぎじゃない?


 初めてここに来た時なんて、あまりにも人通りが少なすぎるし、道もところどころ、ヒビが入っていたりして、ここは田舎なんじゃないか? と疑ったくらいなのに。


 何この、賑わい。

 カムデンメリーほどではないけど、結構盛況だし、道もキレイに整備されてる。

 おいおい、どこにこんな大勢の人間が隠れていたんだ?


 どうせ、チェンツオーネなんか大した人通りじゃないから、宮殿の目の前に転移しても大丈夫だろって思って、麗翠れみに女王と寺原がいる宮殿の門の前に転移してくれって頼んだのに……おかげで、かなり目立ってるじゃねえか。


 「ジンさん! ジンさんだ!」

 「勇者ジンが戻ってきたぞ!」


 はは……初めて来た時は、門番の兵士に急に来るなって怒られて、数十分ぐらい待たされたのにな。

 あっという間に、正面の門が開けられちゃったよ。


 「随分と歓迎されてるわね?」

 「この国で、暴れていた魔王軍幹部のフィスレフェレムとネグレリアを討伐したからだろ。元々いた勇者パーティーの連中なんか悪口言われまくってたぞ。使えない連中ばっかだったし、悪口言われて当然だけどな? 大関おおぜき以外」

 「うわぁ……それ、私みたい」

 「……入るぞ」


 流石に、麗翠並に酷いことはされてなかったぞ? と思ったが、口には出さなかった。

 麗翠にとって、アルレイユ公国でのあの扱いはトラウマだろうし、もう思い出したくないだろ。


 それに、会話を聞いた兵士に佐藤さとう伊東いとう鈴木すずき桃奈ももなの三バカに同情しているのか? と捉えられかねない発言はしない方が良いし。


 「凄いキレイな庭……ロールクワイフとアルレイユじゃ見れなかった光景……」

 「ふふっ……おかしいこと言うのね、麗翠さん。ここは王国よ? 共和国や公国なんかと一緒にしてはいけないわ」


 二人とも庭園のキレイさに感動しているけど、

 初めて来た時の庭園ここは、雑草生え放題、枯れそうな花々、虫の死骸だらけで、歩道は砂まみれという、もはやキレイさとはかけ離れていたよ。

 今みたいに、迎えのメイドや執事もいなかったし。


 それにその後、ここで岸田きしだ達が暴れたせいで、地面は穴だらけになって、女王様を守るために立ち向かった兵士の死体が転がっていたんだぜ?


 大関の葬儀をやる時には、キレイになっていたけど、その時は伊東がここで兵士を数十人も殺しやがったし。

 その日の夜に俺は、アルレイユ公国へと出発したから後始末とかは見てないけど……更にここまで美しくキレイにするのは大変だっただろうな。


 おお……宮殿もキレイだ。

 前みたいに遠くから見ればキレイだ……じゃなくて、ちゃんと近くで見てもキレイに見える。


 「お忙しい中、来て頂き誠にありがとうございます。……こんなことをジン様に言うのは心苦しいのですが、リベッネ殿が殺された後の女王様は、お辛そうで……」


 俺達を案内していた執事は、悲しそうな顔をしている。

 今にも涙が落ちそうなくらい。


 「ねえ、じん? リベッネって、誰? 女?」

 「しっ……麗翠……ここの人達に聞こえない様に聞いてくれ」

 「隠そうとする辺り、女ね? ……でも、殺されたって……」

 「そうだった……二人には、詳しく教えてなかった……」


 一旦執事に、宮殿の入口の扉の前で待ってもらい、近くに兵士や宮殿の人間がいない場所へ二人を連れ出す。


 「近くに誰もいない……よな?」

 「そんなに話しにくいことなら、話さなくてもいいよ?」

 「本当ね。わざわざこんな人気のない所に連れ出されてまで、聞かされたくないわよ?」

 「いや、聞いてくれ。特に国分は俺がいない間、寺原の代わりにこの国を守るんだから」


 俺は二人に、リベッネとはどういう人間で、リベッネが殺されたあの日……何があったのかを全て話した。


 「隠していてゴメン、二人とも。人殺しと呼んでくれても構わない。ただ、魔王軍に寝返った上に、逆恨みで大量殺戮を行った伊東を止めるには、そうするしかなかったんだ」

 「今更、キレイごとなんか言わないわ。わたくし達も何人この世界の人間を見殺しにしたか……あなたを人殺しと呼ぶわけないわよ、仁」

 「伊東くんがそんなことしてたなんて……知らなかったな。隣国にいたのに」

 「あんまり元々の勇者パーティーの連中の名前やリベッネのことは口にしない方がいいってのは、そういうわけだ」


 ……二人とも、優しく庇ってくれてはいるが、少なからずショックだろ。

 どんな理由があろうと、俺が元クラスメートの伊東を殺していたなんて。


 「思い出した。そういえば、ネグレリアと戦っていた時、リベッネって人の名前出していたよね? そっか……そういうことがあったから、あんなに怒っていたんだね」

 「……まあな。流石にあの時は頭に血が上って、ブチギレたよ」


 そうだ。

 この国には、リベッネを始めとしたセトロベイーナ軍の兵士や住民の死体をネグレリアに売った虹の教団関係者がいる。

 それも、女王様に伝えないとだが……辛いな。


 胃が痛くなりながら、俺達を待つ執事の元へと戻るのだった。

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