第123話 今の俺にはヴェルディア様がいる
「我輩の命令に不満があるのか? ケント? 跪いておらぬようだが?」
「も、申し訳ございません!」
俺は慌てて跪いた。
このお方……ヴェルディア様は、金や物や女を与えるだけで、十分なサポートをしてやってると勘違いしているボルチオール王国の
女神イーリスにかつて仕えていた四騎士でありながら、魔王軍に寝返った後は実力でのし上がり、今や魔王軍幹部の三番目にまで上り詰め、この世界の人間からも黒騎士の異名で恐れられているお方だ。
……しかし、残念なことにこの世界の人間は、四騎士がイーリスを裏切って魔王軍幹部となったとは知らないが。
それを知っているのは、女神に選ばれた人間である俺達のみ。
だからこそ、俺は魔王軍に寝返ったんだ。
魔王軍七幹部を全員討伐するなんて、無理と分かったからな。
魔王軍幹部の五番目から七番目までは何とかなったとしても、四騎士に勝つなんて絶対に無理。
それに、何かの奇跡が起こって魔王軍七幹部を全員討伐したところで、七幹部より上の存在である魔王がいる。
そんな化物の討伐に成功すれば、ようやく魔王軍を滅ぼせますってふざけるのも大概にしろって話だよ。
しかも、魔王軍を滅ぼした時の報酬が元の世界に戻れるだけという、全く俺が得しない報酬だ。
命懸けで魔王軍を討伐すれば、あのクソみたいな世界に戻れますよ? ってか? やってられねえよバーカ!
「必要以上に恐れることは無いが……必要以上に侮る必要もない。勇者キシダは
「リベルア様に私が一人で勝つなど、ありえません」
「もちろん、無理です」
「勇者キシダをリベルアクラスと言ったのは過大評価かもしれぬが、リベルアクラスが相手と想定しておけば大抵の敵は雑魚に思えるはずだ。リベルアクラスとは我輩が一人で勝てる可能性が四割程度の存在だからな」
ヴェルディア様の言葉を聞いて、改めて俺は間違っていないと再確認する。
こんなお方が一対一で戦えば四割程度の勝率だと思っているリベルアが、魔王軍幹部の二番目という時点でイーリスが無茶なことを要求している証明なのだから。
「しかし勇者キシダが積極的に動いているというのに、七幹部の一番目……白騎士グレイディアはまだ動かぬか」
「ええ、グレイディア様曰く……勇者キシダ程度では動く意味も必要性もない。ヴェルディア様とネグレリア様で対処出来るレベルだと」
「クックック……敵ながら哀れだ。六番目とはいえ魔王軍幹部である災厄の竜ディザスタを、討伐したパーティーを率いる立派な勇者だというのに、程度という評価で終わってしまうとは……」
「フッ……ご冗談をヴェルディア様。四騎士とイグフォノス、ディザスタ、フィスフェレムの間には、永遠に埋まらない差があったことを私達は知っています」
チッ……あのクラスの中心人物を気取っていたDQNども……ちゃっかり魔王軍幹部討伐してんのかよ。
また六番目辺りを討伐したのが奴ららしいな。
そういう所だけは頭が回るから余計に腹が立つんだよ。
……いや、顔かスポーツだけが取り柄だった奴らだ。
たまたまそばに六番目の魔王軍幹部がいただけで、運が良かっただけに決まっている。
その点で言えば、俺は不運だよなぁ?
大して役に立たないパーティーメンバー、一番近くにいた魔王軍幹部がヴェルディア様。
二年以上もサポートしてやったのに、急に魔王討伐して元の世界に帰るとかほざき始めただけじゃなく、恩を仇で返してきやがった裏切り者の幼馴染、ジン。
腹立つことに、ジンも魔王軍幹部の七番目フィスフェレムを討伐しているんだよな。
ボルチオール王国のアホ達が、ジンを脳死で絶賛していたけど、俺の
何も知らねえバカは、結果しか見ねえ。
案の定バカだから、ジンに見捨てられて俺にすがるしかないから哀れだけどな。
でも、今の俺は違う。
今の俺にはヴェルディア様がいる。
「どうした? ケントよ? 勇者キシダが、グレイディアに程度という評価しかされていないことを喜んでいるのか?」
「いえ……ヴェルディア様の
「クックック……現金な奴だ。勇者キシダが四騎士には挑んですらいない紛い物と気付いたら、随分強気になったようだな」
「ぜひ、お任せください。必ず勇者キシダの首をヴェルディア様に捧げさせて頂きます」
「クックック……実に頼もしい。なあ? ヴェブナック?」
「……ええ」
ヴェルディアとヴェブナックは、魔王軍幹部四番目、すなわち四騎士だったネグレリアが
更に、この戦いには
それは少しだけ先である。
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