第120話 麗翠が一人ぼっちだった理由

 「……落ち着いた?」

 「その言葉そのまま返すよ。麗蒼れあも涙止まったのか?」

 「……あはは、ゴメンね。うちまで急に泣き出して。……じんが長い間一人で苦しんでいたのに、今までうちは何をしていたんだろう……って思ったら、うちも涙が止まらなくなっちゃった」


 数十分経ち、俺達二人はようやく落ち着いた。

 だが、麗蒼は俺に負い目があるのか、まだ謝ってくる。

 ……やはり、双子か。

 この謝りグセは。


 麗翠れみほどではないが、なかなか麗蒼もしつこく謝ってくる。


 「……だから、麗蒼が謝ることじゃねえよ。俺が死んだのかな……って思うのも無理は無いだろ。もう麗蒼は謝らなくて良い。悪いのはどう考えても俺だ」


 二年以上も音沙汰無し、噂にすらならないし話題にすらならない人間とか、もしかしたら死んだのかな? って思うのは当然だろ。


 正直、俺もボルチオール王国にいた頃、麗翠や麗蒼の話題を全く聞かないから、もしかしたら……と一応覚悟はしていたし。

 あ、天ケ浦あまがうらは心配していなかったです。


 だが、ここまで言っても麗蒼は認めない。


 「ううん……謝ることなの……仁が死んじゃった。そう思い込んで楽になろうとしてた。……仁が生きていると信じ続けるのが辛かったから」

 「はぁ……もう良いって……」


 重い重い重い。

 双子の姉と一緒で、俺に対しての思いが重すぎるよ……この子も……。

 こういう所は、国分こくぶんみたいなアッサリとした冷たい女を見習って欲しいな。

 ……いや、それは言い過ぎか。


 麗翠と麗蒼と国分を足して、三で……いや四で割ったら丁度良い性格になりそう。


 「それに、ロールクワイフ共和国のためとはいえ、アルラギア帝国……岸田きしだくん達に従っちゃったのも事実。正直、仁にこれを知られたから会いに来てくれないのかな……って思ったこともあったな……」

 「もういい……もういい……振り返るな……この世界での二年間を……」


 大関おおぜき達や麗翠を始めとした、元クラスメイトの散々な二年間は十分聞いている。

 もう聞きたくないよ。

 その話を聞くと、この世界の人間を救おうって気が削がれるんだよな。


 まあ……でも。

 一つだけ、聞いておかなきゃいけないことはあったか。


 「……なあ、麗蒼。一つ聞いていいか?」

 「ん? 何?」

 「お前ら、なんで麗翠を一人にしていたんだ? なんで麗翠を自分達のパーティーに入れなかった?」

 「…………」


 麗蒼は俺の質問に黙る。


 俺はずっと気になっていた。

 まず五十嵐いがらしが麗翠達の元を去り、麗蒼達のパーティーを経て、岸田達のパーティーへと加入。

 しばらくして、竹内たけうち佐々木ささきが麗翠の元を去り、麗蒼達のパーティーへ加入したことで、麗翠がアルレイユ公国で一人になってしまったことは分かっていたはず。


 何故、麗翠のことは誘わなかったんだ?

 アルレイユ公国で麗翠が酷い扱いを受けていたのを目の当たりにしただけに、俺が納得出来る理由がどうしても欲しい。


 「……ごめん、お姉ちゃんが一人になったのは……うちのせい……うちのせいなんだ……」

 「……俺は理由が聞きたいんだ。謝るんじゃなくて、どうしてなのか理由をちゃんと話して欲しい。自分のせいだとか言って、ごまかすな」


 イラついてしまった俺は、詰めるように冷たく言い放ってしまった。

 麗蒼は驚いたのか少し黙ってしまったが、覚悟を決めるように頷いた後、理由を話し始める。


 「うちが……岸田くんに従った以上、私は仲間になれない。お姉ちゃんは、そう言ってうち達のパーティーに加入するのを拒んだの」

 「ああ……そうか。麗翠も岸田のこと大っ嫌いだったからな。だからか……」


 自分の利益のためなら従うのを耐えられる程度に岸田を嫌っているのか、それともいくら利益のためでも、岸田に従うのは無理ってほど嫌っているのかに別れるはずだからな、普通の人間は。


 麗翠は後者だったというわけだ。

 あ、ちなみに俺も後者です。


 「それと……お姉ちゃんとパーティーだった三人が口を揃えて、お姉ちゃんはいらない! って……強く言ってくるから……岸田くんからも、姉とはいえ役立たずなんか加入させんなって言われたし……」

 「ああ? アイツら……」

 「じ、仁! ま、また目が据わってるって! だから言いたく無かったんだよ! みんなボコボコにしてやる……とか言い出しそうだし!」


 麗蒼は慌てながら、俺を宥める。

 俺のことをよく分かっている人間の一人なだけあって、やろうかな……と考えていたことをピッタリと当ててきてビックリだ。

 やるべきことが沢山あるから、やらないけど。

 

 ……ま、気になっていたことは聞けたし、良しとするか。


 「そろそろ屋敷へ戻らないか? 国分も準備終わるだろ。あんまり待たせると、あの女うるさいんだよ……昔から。あ、そういえば俺に伝えなきゃいけないことって思い出せたか?」

 「……ううん、全然」

 「じゃ、諦めて戻ろうぜ? これからはいつでも会えるんだし」

 「うん……そうだね!」


 結局、イーリスの手によって忘れさせられたあの日の記憶の一部は、思い出せずに屋敷へと戻ることになった。

 でも、これからはいつでも会える。

 だから、何か思い出したら会いに行けば良い。

 それだけの話じゃないか。

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