第116話 あなたには泣く権利なんてない
「もうわたくし、限界だわ。ただでさえ嫌で耐え難い屈辱なのに、こんな話を聞いてしまったら、あの男の下にいるという事実に、耐え続けるのは無理ね。わたくしは彼や
……テメーも協力しろよ? みたいな感じのことを国分にアイコンタクトで訴えた身の俺としては、麗蒼のフォローは出来ない。
「……コクブン殿? それは、よく考えた結果で出した結論なのか? 勇者キシダが嫌いだという感情だけで出した結論ではないか?」
「……申し訳ございませんわ。オリヴェイラ様。感情で動く愚かな女だと思って、わたくしのことは忘れて欲しいですわ」
「待ってくれ。待遇に不満があるのなら、改善する。何でも言ってくれ……我々にはコクブン殿も必要だ」
「……勇者キシダとわたくし。どちらかを選べと言われれば、アルラギア帝国はあの男を選ぶ。その時点で、わたくしの望みは叶いませんわ」
「……っ、それは……。そうか……寂しくなるな。この国に来てからは貴重な、お茶会の友人だったのだがな……」
当然、オリヴェイラ様は引き止める。
だが、国分の意思が思ったよりも固いことに気づいたのか、すぐに諦めたようだ。
「麗蒼さん、悪いわね。わたくしは、あなたみたいにこの国の人間を守りたいと思える人間じゃないの。……
「おい国分……」
「矛盾していると思わないのかしら?
麗蒼が今、ショックで泣いているのに、流石に言い過ぎだと思って、国分を止めようとするが二年以上ぶりに、国分に名前を呼ばれてビックリする。
……確かこいつが、俺を名前で呼ぶ時は聞いて欲しい話がある時のサインだったな。
うへぇ……なんで俺もそんなことなんか覚えてるんだよ……嫌だなあ。
たった二ヶ月だけの関係だったのに。
その二ヶ月が大分濃かったけど。
「む、矛盾……?」
「麗蒼さん。あなたは、かつてのお友達が八人も亡くなっていることに悲しんでいる。でも、気付いて? あなたの判断であなたが今従っている男が、その内の五人の死に関わっているのよ? 少なくともあなたには泣く権利なんてないわ」
「……で、でも」
「分かっているわ。そうしなければ、死んでいたのはロールクワイフ共和国の人々やわたくし達。その点に関しては、感謝しているわ。……でもね、わたくしにとってあの男に従うということは、死ぬよりも耐え難い屈辱だったのよ。だからこのパーティーを抜けるの」
「…………」
国分の本音を聞いた麗蒼は、黙っている。
確かに、矛盾……してるか。
多くのクラスメイトが死んでいることを悲しんでおきながら、多くのクラスメイトの死に一番関わっている奴に従っているのは。
麗蒼は、優しい。
だからこそ、ロールクワイフ共和国の人間や国分を含めたパーティーメンバーのことを考えて、アルラギア帝国の従属国となることを決めた。
けど、俺も最初麗蒼がアルラギア帝国の従属国になることを決めたってことを
もし、この判断をしたのが麗蒼じゃなかったら、俺はそいつを敵とみなして、やり合っていたはずだ。
他の奴にこの国とパーティーメンバーを守りたいからアルラギア帝国の従属国になったと言われていたとしても、納得していたか怪しい。
あくまで麗蒼だったから。
争いにもならず、話し合いで協力してもらおうという考えになっただけなんだ。
他の奴だったら、俺は自分に協力させるために実力行使に出ていたかもしれない。
「……ごめんなさいね。勇者という重責も背負わない人間が、文句を言って。わたくしのことは、恩知らずと思って忘れてくれて良いわ。仁、この国を出て行く準備をするから少し待っていてくれないかしら?」
「……ああ」
「これから、よろしくね? あ、麗翠さんも」
「あ……はい……」
「大丈夫よ? 基本、仁と行動するのは麗翠さん。わたくしはセトロベイーナ王国の新たな留守番要員になるだけよ?」
そう言うと国分は立ち上がる。
……一体、何が大丈夫なんだ?
相変わらず、国分は訳の分からないことを言うな……。
麗翠は麗翠で何故かホッとしているし。
「オリヴェイラ様、麗蒼さん。お世話になったわ。お二人ともお元気で。ああ……あの三人が戻って来たら、よろしく伝えておいてね」
改めて二人に別れの挨拶を言って、国分はこの国を出る準備をするため、部屋から出た。
さて……当初予定していた想定とは違ったが……。
女神の加護持ちを引き抜くことには成功したし、この国に長居する意味は無いな。
国分なのが、凄い嫌だけど。
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