第117話 二十九人じゃないよ、三十人だよ?
「……よし、ジン殿とレミ殿にテラハラ殿をアルラギア帝国まで連れて来て貰い、回復術士のスズキと身柄を交換する。信用出来ない回復術士を引き取って貰う見返りに、コクブン殿がジン殿のパーティーへ加入する。……本国への報告はこんな所で良い。これはアルラギア帝国が得をする取り引きだ。帝王がこの取り引きを許可しないということはないだろう」
「かしこまりました。オリヴェイラ様」
「……おい。字が間違っているぞ? 帝王へ渡す文書を書いているという自覚がないのか?」
「し、失礼しました! 書き直します!」
今は、この取り引きをアルラギア帝国の帝王に報告し、許可を得るための文書を作成しているのだが、文書作成はオリヴェイラ様と派遣軍の幹部達で行うので、俺がやることは無いに等しい。
……が、この取り引きに関わったということで俺や
というか、文書をしっかりと確認もせずにサインとか怖くて出来ないから帰れないというのが、本音だけど。
「……ちょっと時間掛かりそうだね。ごめん、お姉ちゃん。少し
「えっ……」
「あんまり、人には聞かれたくないことだし、話せる時がある内に話しておきたいからさ……お願い!」
「…………」
麗蒼が何故か突然、麗翠に俺と二人きりで話をさせてくれないかと頼む。
もちろん、麗翠は困惑している。
……当たり前だろ。
なんで俺と二人きりで話をしたいのに、お願いをするのが俺じゃなくて麗翠なんだ?
「……私が決めることじゃないし。仁に聞けば?」
「あ、そう? じゃあ、行こっか仁」
「俺にはお願いしないのかよ……国分も待たなきゃだし、時間があるから良いけどさ」
腑に落ちないことはあったが、どうせ帰れないので時間潰しついでに、麗蒼に付き合うことにした。
◇
外へと出た俺と麗蒼は、アルラギア派遣軍総司令部そばの裏山を二人きりで歩いていた。
「ここら辺なら誰もいないかな……ごめんね、仁。オリヴェイラ様達やお姉ちゃんには聞かれたくなかったから」
「結構歩いたな……で、話って?」
「……
「……はなとこーくん? ……ああ、
高校時代、俺は二人をそんな風に呼んだことは無かったので、一瞬だけ麗蒼が誰のことを話そうとしているのか分からなかった。
だが、麗蒼が天ヶ浦と航也のことに関して話そうとしているという事実に、俺は足を止めて聞かざるを得ない。
「二人がラルジュード帝国に仕える勇者パーティーのメンバーだってことは……知ってるよね?」
「……知ってるというか、俺はほとんどの元クラスメイトとこの世界で再会しているからな。再会した連中と死んじまった奴ら、そして色んな人間から聞いたパーティーメンバーの情報を元に計算したら、天ヶ浦と航也を含めてちょうど残り四人。その四人がラルジュード帝国にいる勇者パーティーってことだろ」
「……それ本当? ちゃんと計算合ってる?」
「合ってる……はずだ。四人一組の勇者パーティー七組の二十八人に、俺を加えるんだからあのクラスの人間は二十九人だろ?」
……いや、麗蒼のせいでちょっと不安になってきたな。
もう一回計算し直そう。
移動や死んだ奴を考えたりすると面倒だから、元々のパーティーで。
ボルチオール王国が、ケント、アンリ、ニーナ、サラの四人。
セトロベイーナ王国が、
アルラギア帝国が、
アルレイユ公国が、麗翠、
ロールクワイフ共和国が、麗蒼、国分、
そして、どこの国かは分からないが、
これで二十四人だから、残り四人。
……うん、間違いない。
ラルジュード帝国の勇者パーティーメンバーは、天ヶ浦と航也、そして
深川未央とか久し振りに思い出した名前だな。
それぐらい関わりが無いというか、本当に留年ギリギリまで休みまくってたから、関わることが無かったんだよな。
休みが多い理由も知らなかったし。
唯一、彼女のことで知っていることと言えば。
俺達の担任だった深川
「やっぱり、計算は合ってるな。俺を含めてあのクラスにいた生徒は、二十九人なんだから。ちゃんと計算もし直したし……」
「……ちょっと待って、仁……確かにあのクラスの生徒は二十九人だけど、この世界に転移させられたのは仁も含めて三十人だよ?」
「……え?」
「あの日……始まりの部屋で、イーリスに集められた時、担任の深川先生もいたよね。……覚えてないの? 深川先生が、イーリスに猛抗議してたのに」
「…………」
始まりの部屋に俺がいたのは、一瞬だ。
だから、気付かなかったんだ。
イーリスの手によって、この世界に転移させられたのは、生徒二十九人と教師が一人で、合計三十人ということに。
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