第109話 元の世界で努力家だった奴は、やっぱり異世界でも努力家

 「本当に、感謝しなさいよ。わたくしが顔なじみでは無かったら、あなた達じゃ会えないお相手なんだから」

 「分かってるよ! もう何回目だ!? その言葉!? こっちの世界でも、お前は恩着せがましい奴だな!」

 「あ、あんまり騒いじゃ駄目だよ……じん


 怪我をしていた女性を、治癒魔法使いの所へ届けた後、俺と麗翠れみ国分こくぶんの案内で、アルラギア派遣軍の総司令部がある建物へと連れられ、客人という扱いで応接室に通された。


 ……国の中枢があるような建物に、顔パスで通れる辺り、一応国分も勇者パーティーとして仕事をしていたり、この国を動かす側の連中に、顔が広いんだな。

 恩着せがまし過ぎて、マジで頭に来るけど。


 「……あなた、これから会う方にだけは、そんな言葉遣いをしないことね。アルラギア派遣軍のトップは、アルラギア帝国の帝王カイケル・アルラギア様の次女……つまり第二王女、オリヴェイラ・アルラギア様なんだから」

 「……はあ? 第二王女ぉ? そんな身分の人が、わざわざ従属国への派遣軍の総司令官なんて、やってんの?」


 これから会う人間は、アルラギア帝国の第二王女。

 だから、言葉遣いには気をつけろという国分の忠告だが……。

 その前に、なんで宗主国の第二王女が従属国への派遣軍の総司令官として、駐在してんだよ。


 そりゃ顔なじみでもなかったら、会える人間じゃねえわな。

 王族なんだから。


 「あなたねえ……そんなこと考えれば、すぐに分か……あっ、いらっしゃったわ。ごめんなさいね、オリヴェイラ様。……ほら、あなた達も挨拶しなさい」


 話の途中で、応接室へ赤髪の女性が入ってきた。

 挨拶するように促されたので、一応頭を下げる。


 えぇ……ガチの王女じゃん。

 応接室へ入ってきた女性を一目見た俺の感想は、戸惑いだった。

 頭にティアラ、高価そうなドレス……。

 えっ……王女じゃん……。


 なんで派遣軍の総司令官とかやってんの? という謎は、どっからどう見ても王女! にしか見えない彼女を見たら、更に深まるばかりだ。


 「待たせて申し訳ない。アルラギア派遣軍総司令官、オリヴェイラ・アルラギアだ。派遣軍の人間が女神の加護を持つあなた方二人を、不快にさせたと聞いた。総司令官として、謝罪する。すまない」


 彼女は、応接室に入ってくるなり、今回の件に対して、俺達に謝罪してくる。

 部下の不始末を、組織のトップとして、迅速に謝罪出来るってだけで、好印象だね。


 普通は出来て当たり前なんだけど、言い訳から入る奴って一定数いるからなあ……。

 元の世界にも、こっちの世界にも。


 あと、単純に美人だわ。

 系統で言うと、サンドラさんみたいなキレイ系かな。

 ……まああの人は、酒癖が最悪な上に酒浸りの生活をしているという欠点があるが。


 「……フッ、意外だわ。あなたもそこら辺に転がっている男どもと同じように、オリヴェイラ様ほどの美人を見ると黙ってしまうのね」

 「……仁、鼻の下伸びてる」


 いかんいかん、久しぶりにちゃんとした完璧な美人を見てしまったので、思わずじっくり見ちゃったよ。

 おかげで、国分には鼻で笑われるし、麗翠には白い目で見られている。


 でも、男なんてみんなそうだぞ。

 常に、女の子に追いかけ続けられるモテ男だって、絶世の美女がいたら思わず振り向いちゃうのが、男なんだから。

 

 元クラスメイトにもそんな男がいましたねえ。

 生きているのかどうか分からないけど。


 「おい、国分? ところで、麗蒼れあは? 一緒にいるって、聞いていたんだけど? あーあと一応、他のこの国の勇者パーティーの連中は?」


 王女をガン見していたのを、ごまかすように麗蒼を始めとした勇者パーティーが、何故王女と一緒にいないのか国分に聞く。


 「……知らないわ。わたくしは、あの人達に興味ないもの。麗翠さんに聞いたら?」

 「……あっそ」


 はあ……と国分にため息を吐きながら俺は呆れ……いや、コイツ。

 何か知ってんな。

 二ヶ月とはいえ、一応彼氏(笑)だった俺を騙せるなんて思わない方がいい。


 どうするここは……。


 「ああ、勇者レアなら風呂だ。レア殿は真面目でな、我らアルラギア派遣軍に混じって、剣術などの稽古を毎日する勤勉な勇者なんだ。流石に汗まみれで、知り合いの前には出れないだろう?」


 王女はどうやら、麗蒼の居場所を知っていたらしい。

 それにしても、相変わらずこっちの世界でも、努力家というか……真面目なんだな……麗蒼は。


 わざわざ派遣軍に混じって、剣術の稽古って。

 いや、俺も雑魚モンスター狩りで、剣術の練習とか、筋トレとかで身体を鍛えたりはしていたけど、それは女神の加護が無かったからそうせざるを得なかっただけであって。


 俺みたいに、女神から加護を与えられなかったわけでもないのに、この世界の人間と一緒に稽古って……いや、本当凄いな。


 元の世界で努力家だった奴は、異世界でも努力家……ってわけか。


 「そうなんですね。では、その間少々お話しましょうか、オリヴェイラ様」


 俺は、異世界でも麗蒼が良い意味で変わっていなくて嬉しかった。

 ……だが。


 国分が、ずっと俺と顔を合わせないことは、引っかかっていた。

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