第108話 意味深な笑顔
「おいおい、そんなに動揺するなよ? その通りだって、俺に教えているようなもんだぜ?」
「き、貴様ァ……!」
苦虫を噛み潰したような顔で、派遣軍のおっさんは俺を見る。
そしてこの一件は、大国を自負しているアルラギア帝国にとって、隠したい事実。
それを、どこの国の人間か分からない奴に、知られているんだから、そりゃ動揺するよな。
「フフッ……流石ね」
……つーか、気付いているんなら、さっさと教えてやれよ……。
岸田達が、俺に負けたってことをさ。
「エリナ様! 笑いごとではありません!」
「……フフッ、アハハッ……こんなの笑うしかないわよ? アルラギア派遣軍は、学のない中年の集まりって、あなたが証明しているんだから」
「……いくらエリナ様でも……その言葉は、許されません」
「今のあなたに怒る権利などないわよ? 彼がアルラギア帝国の勇者パーティーに、勝った人間だと気付けないあなたにはね?」
「なっ!? なんですと!?」
国分は、まだ気付かないの? とバカにして嘲笑いながら、俺が岸田達に勝ったことを教える。
……せ、性格が悪い……。
コイツは、いちいちバカにしなきゃ、人に何かを教えてやることすら出来ないのか?
……まあ、俺の口からおっさんに事実を話すよりも、国分から聞かされたほうが、おっさんにとっては説得力があるから納得するだろうし、俺もセトロベイーナ王国での一件を説明する手間が省けて助かるけど。
「信じられないかもしれないが、国分の言う通りだ。それともお仲間みたいに、
まだ俺へ疑いの目を向けているおっさんに、
「うっ……麻痺毒の魔法……そしてその剣の色……貴様は、女神の紫の使い手か……だ、だが! アルラギア帝国の勇者は、
「だからなんだよ? 岸田達……お前らの頼りの勇者パーティー様達は、ボルチオール王国攻略に忙しいだろうから、しばらくの間は助けに来ないぞ? え? まさか? それも知らないと思ってる?」
「あ……あ……な……何故それを……」
エクスチェンジで、今は女神の紫に切り替わっていたので、俺が今手にしている女神の剣は、ぱっと見だと、女神の紫にしか見えない。
それで、おっさんは俺が持っている女神の剣は女神の紫と勘違いして、なんだ! 我らが勇者の岸田様が持っている女神の橙より格下じゃないか! とでも思い、脅し返せると考えたのだろうが……淡い希望は、早めにぶっ潰すか。
俺は、女神の剣をおっさんに突きつける。
「諦めろ。殺されたくなけりゃ、この国の勇者……
「ひっ……ヒィッ! エ……エリナ様! どういたしますか!?」
「あら、彼はわたくしじゃなくて、あなたに頼んでいるのよ? わたくしは知らない……ああ……はいはい、分かったわよ……冗談よ。そんな怖い顔で、わたくしを睨まないで?」
わたくしは無関係〜♪ みたいな感じで、ヘラヘラと笑い続けている国分を、ちょっと見ただけなんだけどな。
国分に俺が睨んでいると思われた。
……睨まれるようなことをしている自覚があるんなら、その性格直せよな。
「わたくしまで、彼に殺されてしまいそうだから、彼らの案内は、わたくしがやるわ。あなたは出来るだけ多く、派遣軍の人間に伝えなさい。知らない人が、彼に喧嘩でも売ったら、この国ごと派遣軍が滅ぼされるわよ?」
「も……もしそうなったら、帝王様の怒りを買ってしまい、国に残した家内や子供達の首が飛ぶ……す、すぐに、情報共有を致します!」
「あと、そこに転がっている中年二人の回収もね。いつまでも、地面に寝っ転がって……みっともないわ」
「はっ……かしこまりました! し、失礼します!」
国分が俺達の案内を申し出たので、おっさんは見逃すことにした。
おっさんは、逃げるように俺達の前から姿を消した。
……仲間の回収してけよ。
一人で、二人運ぶのはキツいんだろうけど。
「……どういう風の吹き回しだ?」
さっきまで国分は、ヘラヘラと笑っているだけで、自分は無関係というスタンスでいたのに。
まさか、そんなに俺は殺気を出しながら、国分を睨んでいたのか?
単純に疑問だったので、国分に聞く。
すると、さっきまで浮かべていた腹立つ、嘲笑ではない笑顔で。
「あなたを敵に回してはいけない。わたくしの加護がそう教えてくれただけよ?」
「……は? どういうことだよ?」
「いずれ分かるわ。さ、行きましょう。それにあの一般人も、治癒魔法の使い手の所へ連れて行かないとだわ。あなたの仲間……
「そ、そうだな」
国分は意味深な笑顔を俺に向けて、女性の手当てをしている
国分の言動に首を傾げながら、俺も麗翠の元へ戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます