第107話 人は簡単に変わらない、良い方には

 「相変わらず、性格が悪いのね……あなた。この中年に言い放ったあなたのその言葉……わたくしの真似でしょう?」

 「よくお分かりで」

 「ええ、短い間とはいえ、わたくしもあなたも本当の自分をさらけ出して、付き合っていた仲ですもの。すぐに分かったわよ。……あなたは、そういうことをあえてする人間ですもの」

 「……俺もすぐに分かったよ。他人を見下したその偉そうな口調と、有名企業の社長令嬢なだけのクセに何故か持っている選民意識……選民思想……お前こそ変わらないみたいだな? 別れる時に、忠告してやったのを覚えていないのか?」


 国分こくぶんとの二年ぶりの再会だというのに、軽くではあるが、再会して早々言い合いになる。

 ……少しイラッときたよね。

 まさか国分に、相変わらず性格が悪いのね……とか呆れられるなんて。

 確かに俺は、お世辞にも性格が良いとは言えないし、性格が悪いというのも自覚してる。


 だけど、国分には言われたくないよね。

 お前の言動は、性格が悪いどころか論外レベルだと思うんですけど。


 「フフッ……懐かしいわね」

 「あ? 何がだよ?」

 「あなたぐらいよ。わたくしにそんな口答えするなんて。元の世界でも、この世界でも。けど、許してあげるわ。自分よりも才能のある人間から呈された苦言には、聞く価値があるもの」

 「お前はどこまでも上から目線なんだな……」

 「あら? 褒めているのよ?」

 「…………」


 国分の相変わらずさに、もはや苦言を呈する気すら失せる。

 もういいや……これ以上色々言ったところで、国分には響かないだろう。

 それに、色んな元クラスメイトと再会して、もう十分に分かったろ。


 たった二年ぐらいじゃ、人はそんなに変わらないって。

 ……悪い方に変わってしまった奴は何人かいたけど……良い方に変わる……成長していくのなんて、二年ぐらいじゃ無理なんだろう。


 現に俺も、この二年間で人間的に成長したか? と聞かれたら、成長したとは言えないし。


 「……オホン! エリナ様! 彼は一体誰なのか、説明していただきたいですな! 楽しそうにお話するのはよろしいですが、彼は立派な犯罪者だ! アルラギア帝国軍に歯向かうなど、万死に値する!」


 俺と国分とのやり取りに、わざとらしい咳払いをしながら、派遣軍のおっさんが割って入ってくる。

 ……宗主国から派遣された軍人という立場を利用して、自分達の欲求を満たすために、女性を連れ去ろうとしていたおっさん達の一人に、まさか犯罪者扱いされるとは、心外だな。


 あと、俺と国分の今のやり取りをどう見たら、楽しそうに話しているなんて感想が出てくるのかが知りたい。

 目、腐ってんじゃねえのか?


 「彼は、わたくしと同じ世界から来た人間よ。ここまで言えば、頭の悪いあなたでも理解出来るでしょ?」

 「……それは理解しています。エリナ様と彼のやり取りを聞いて、何も理解出来ない人間は、よほどの鈍感でしょう。ただ、アルラギアの人間として、我々に逆らうような人間とエリナ様が、仲良くするのは好ましくないということです。いくら彼が、女神の加護を持っていたとしても」


 派遣軍のおっさんは、国分にそう忠告しながら、俺を睨む。


 へぇ……落ちこぼれとはいえ、大国であり帝国であるアルラギア帝国軍の一員なだけはある。

 今まで、俺が様々な国で出会ってきた軍人達は、俺が女神の加護を持っていると分かった瞬間から手のひらを返すようにご機嫌をとってきた。


 だが、このおっさんには、そういった感じは見られない。

 もしかしたら、どう足掻いてもこの世界の人間は、女神の加護を持っている人間に絶対勝てないということを、分かっていないただのバカなのかもしれない。


 もしくは、いざとなれば岸田きしだ達に頼れば良い……と考えているだけの他力本願人間かのどちらかだろうな。

 おっさんのタイプ的に。


 さて、ただのバカなのか他力本願人間なのか。

 おっさんが、何やら話したそうにこちらを見ているので、大人しく聞いてやるか。


 「どうした? 話なら聞くぜ?」

 「……女神の加護を持っているとはいえ、調子に乗らないほうがいい。アルラギア帝国軍は、エリナ様を含め、九人の女神の加護を持っている人間が味方なのだ。いいか? 貴様程度の人間、仲間の女ごと、いつでも潰せると理解しろ」

 「……ハハッ」

 「何がおかしい?」


 何がおかしいかだって?

 そりゃ、笑っちゃうだろ。

 お前が、俺の予想していたタイプの人間に過ぎなかったんだから。

 結局、岸田達頼みの他力本願人間だったか。


 でも……九人ってことは、岸田、五十嵐いがらし園部そのべ、そして従属国のロールクワイフ共和国にいる麗蒼れあ、国分、丸杉まるすぎ竹内たけうち佐々木ささきの他に、俺の知らない人間が一人いるのか。

 

 最近、新たに加わったのか、それとも、忌避の力要員で、岸田達には同行せず、アルラギアを守っているだけの人間かは分からない。


 けど、女神の剣イーリス・ブレイドを持っている七人の勇者が、誰なのか俺は知っているので、残りの一人はさほど優れた人間ではないことが分かる。


 ……まあ、それよりもさ。


 「バカだな、アンタ。九人の女神の加護持ちが味方だから潰せる? 笑わせるなよ? アルラギア帝国の味方をしていた女神の加護持ちは、もっと多かったはずじゃないのか?」

 「!? な、何故それを!?」


 俺の問いに、おっさんは露骨に動揺した。

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