第104話 国分 絵里奈
「辞めて下さい! 離して下さい!」
「離して下さいだってよ! そんなことを言う権利はお前らにはねえんだよ!」
「お嬢ちゃ〜ん? ロールクワイフ共和国はアルラギア帝国の従属国になった。つまり、アルラギア帝国に仕える俺達アルラギア帝国軍の人間には、逆らえないってことを理解してないんだな〜困るな〜」
「安心してくれ! 嬢ちゃんの身体も頭も教育してやっからよ!」
それは、赤い鎧を着た数人のおっさん達が嫌がる若い女性を囲んで、無理矢理連れて行こうとしている現場だった。
……ん? 赤い鎧?
「おい、麗翠。さっき魔王軍幹部よりも、ロールクワイフ共和国にとっては、同じ人間が敵って言ってたけど……まさか?」
「……うん。あれは、ロールクワイフ共和国に駐留しているアルラギア派遣軍。ロールクワイフ共和国が従属国になったことをいいことにして、この国で好き勝手やってるの」
「ああ……やっぱりな」
ロールクワイフ共和国はアルラギア帝国の従属国となってしまった。
麗翠からその話を聞いた時、
……まあ、あの女の人の反応を見るからに、そんなことは考えていなかったんだろうな。
この国を動かしている連中も、国民も、勇者パーティーも。
「残念だが、自業自得だな。よく考えもせずに従属国となる判断を下すような連中を、国を動かす側の人間に選んでしまったのが悪い」
「あはは……
麗翠は苦笑いしながら、アルラギア派遣軍に連れ去られ、これから酷い目に遭うであろう、女の人も含めたロールクワイフ共和国の全国民に同情していた。
……いや、それだけじゃないか。
自分の妹である麗蒼が、ロールクワイフ共和国という一つの国を滅ぼしかねない判断ミスをしてしまったという罪悪感があるのかもしれない。
……これ以上、麗翠にあの光景を見せるのは酷だな。
「
遠回しに、あの女の人は見捨てろ。
俺は麗翠にそう告げた。
ここで、俺達が首を突っ込んでも、何の得にもならないからな。
この国にとって。
従属国となったはずの国の国民が、宗主国の人間である我々に逆らってきました……なんてあの軍人達に、アルラギア帝国を動かす連中に報告されてみろ。
アルラギア帝国が、今度は完全に侵略しに来るよね。
申し訳無いが、今の俺達はセトロベイーナ王国を守るだけで精一杯だ。
絶対にこの国を守れるという自信もないのに、下らない正義感で人一人救って、結果的にこの一件が引き金で、それ以上の被害を出すことになりました……なんてことになったら、よく考えもせずに従属国になる判断を下した麗蒼と一緒だ。
……この光景を見たのが、ボルチオール王国で、
俺は無いと思うが、神堂があっさり負けてしまうかもしれないし。
岸田達が神堂から逃げることに成功するかもしれないし。
もしかしたら、強さを認められて、神堂が岸田達に代わって、新しくアルラギア帝国軍を率いる人間になるかもしれないし。
他にも色んな可能性がある。
なので、可哀想だから助けるなんてことはしない。
あの女の人には申し訳無いけど、それがこの国のために……
「そこの勇敢なお二方! お礼ならしますから、助けて下さい! このままだと酷いことをされてしまいます!」
……ん?
今、あの女の人、俺達に向かって助けを求めてきたのか?
「うわーどうしよ……仁。助け求められちゃったよ」
「ええ……マジかよ」
聞き間違いじゃなかったよ。
助け求められちゃってたよ。
ああ……あの女の人を見捨てるための理由なんか後で考えて、さっさと立ち去るべきだった。
……いや、今ならまだ遅くない。
聞こえないフリして黙って立ち去れる。
と考えていたその時だった。
大声で話す、アルラギア派遣軍のおっさん達のやり取りが耳に入る。
「へへっ! 誰も助けちゃくれねえよ! 何せこの国の勇者パーティーは、アルラギア派遣軍を支持しているんだよ!」
「残念だったな〜お嬢ちゃん? つまり、この国にアルラギア帝国の人間に逆らえる奴なんかいねえんだよ!」
「お! 丁度良いところにいた! お前からもこの嬢ちゃんに言ってやってくれ! エリナ!」
……俺達は立ち止まっていた。
おっさん達に、エリナと呼ばれ、やってきた女性が、かつての元クラスメイト……つまり、この国の勇者パーティーの一員だったから。
……いや、俺にとってはそれだけじゃねえ。
最悪だ。
まさか、この女が……麗蒼と一緒のパーティーだったなんて。
「麗翠……知ってたのか?
「あ、うん……って、ど、どうしたの!? 凄く嫌そうな顔して!?」
麗翠にかなり心配された。
それほど今の俺は、酷い顔をしているのだろう。
だって、当たり前じゃん。
……俺の元カノだもん。
ワガママ過ぎて、二ヶ月ぐらいで別れたけど。
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