第103話 丸杉 幹太

 麗翠れみの案内で、ラルンハーセスを歩く。

 ……何ともまあ、特徴の無い街だ。


 この街の人間に見つからないように、麗翠が転移地点を街の外れにしていたので、街の外れから少しこの街を見たくらいで、こんな街が首都だと……? と、馬鹿にしない方が良い。


 麗翠にそう注意され、街の中心部を歩いてから判断しようと言われたが、こうして麗翠の案内でラルンハーセスの中心部を歩くが、俺の評価は全く変わらなかった。


 ファウンテンレベルのこの街が、首都だと……? という評価は。


 「うーん……田舎ってレベルじゃないけど、都会って感じもしないなあ……やっぱり首都とは思えない街だよ」

 「私は首都でもこのくらいの街で良いと思うけど」

 「元の世界、つまり俺達が住んでいた日本だったら、この街は政令指定都市……いや、地方都市すら名乗ったらいけないレベルだぞ……こんな街が首都で良いわけがあるか」


 観光名所も無い。

 名産品も無い。

 国の首都ならば、国の中枢の機関があるような建物があっても良さそうなのに、それらしい建物すら無い。


 こんな街が首都だったら、国がガッタガタになるわ。

 ……いや、この程度の街が首都だからこそ、アルラギア帝国の従属国となるしかなかったのか。


 まあ、そんな失礼なことは口に出しては言えないんですけどね。

 そもそも、この程度の街が首都!? という発言が大分失礼だし。


 「……で? どこへ行くんだ? このまま、ブラブラと街の中心部を歩くのか?」


 ラルンハーセスの街に、ショッピングに来ているようにしか見えない麗翠に不安になった俺は、思わず聞いてしまう。


 俺達は、麗蒼れあを含めたこの国の勇者パーティーに会いに来たんだ。

 だが、この国に初めて来た俺が、麗蒼達の居場所を知っているわけがない。


 だから、ある程度この国を知っている麗翠について行くしかないんだけどさ……服屋とか市場とか行く意味ある?

 え……まさか、この街全部をしらみ潰しに探すつもりなのか?

 おいおい……だとしたら、大分時間かかるぞ……?


 それだったら、ラルンハーセスがファウンテンレベルの街で良かった……って思っちゃうけど。


 「心配しないでよ、じん。あの服屋に行ったのは、麗蒼の行きつけの店だったから。市場に行ったのは、市場にある屋台で丸杉まるすぎくんが、食べ歩きしていないかなと思って寄っただけ。今日はいなかったみたいだけと」

 「丸杉って? あの?」

 「そうだよ、麗蒼と一緒の勇者パーティーのメンバーなんだ」


 麗翠が口にした、丸杉という男に俺は覚えがあった。


 丸杉まるすぎ幹太かんた

 俺達二人の元クラスメイトで、部活は相撲部に所属していた男だ。

 ああ……そういや、丸杉って元の世界でも暇さえあれば、何か食ってたな。


 授業中とかも、お菓子食べてたり早弁をしていたりして、よく教師に注意されていたのも覚えている。

 なるほど……丸杉か。

 セトロベイーナ王国に引き抜けば、あの立派な体格だ。

 女王様の護衛として申し分ないだろう。


 ……というか、ただブラブラしているだけのように見えて、しっかり麗翠は麗蒼達がいそうな場所に寄っていたのか……。

 なんにも買わないくせに、あの店も見たい! この店にも行きたい! とか言う、どっかの女みたいに人を振り回しているだけかと思ったぜ。


 ま……アイツと麗翠じゃタイプが違うか。


 「屋台にいないとしたら……酒場かなあ? 丸杉くんがいそうなのは」

 「……こんな昼間っから、酒なんて飲むか? そんな怠惰な生活をする人間が、勇者パーティーの一員で良いのかよ」

 「丸杉くんは、お酒目的で酒場行ってないよ。ここの酒場で出てくる脂っこい食べ物が大好きなんだよ! って言いながら、何かの唐揚げを十人前くらい食べていたし」

 「…………」


 麗翠の話を聞いて、元の世界の頃と全く変わってねえ……と思い、黙ってしまった。

 ……っておい、相撲部現役の頃から、食生活が変わってないってことは、もしかして丸杉……この世界に来て、更に太ったんじゃないのか?


 「……最後に丸杉を見た時、体重何キロぐらいありそうだった?」

 「高校の時からプラス五十キロぐらい太っちゃったなあ〜とかって言ってたから、百五十キロぐらいじゃない?」


 ……高校の時と比べて、プラス五十キロって……この二年間で五十キロも体重増えたのかよ!

 どんな食生活してんだよ!

 しかも、高校の時には既に百三十キロあったはずだから……今は……百八十キロ!?


 俺の心の中で、丸杉に対する突っ込みが止まらない。

 それと同時に、二年間でプラス五十キロも太ったということは、イーリスから貰った防具が着れなくなっているんじゃないか? という疑問が湧く。


 「……マジかよ。そんなんじゃ、マトモに動けないだろ……」

 「? ちゃんと歩いてたよ?」

 「そういうことじゃねえよ。そんなに体重があったら、戦えないだろって話だよ」

 「ああ……ま、それで良いんじゃない? ロールクワイフ共和国には、魔王軍幹部はいないし……どっちかと言うと……同じ、人間が敵だから……あ、ほら……」

 「いや? どういう意味……は……?」


 麗翠の言葉を、一瞬理解出来なかった。


 が、しかし。

 麗翠の視線の先にある光景を見て、すぐに理解した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る