第105話 何も変わってねえな、国分
「あら、わたくしを呼び捨てにするのは、辞めていただきたいですわね。いくら、あなた達がアルラギア帝国軍の一員でも、わたくしとあなた達とでは永遠に埋まることのない差というものがありますわ。身分も、そして実力も」
軽いジョークでもなんでもなく、自分をお前らごときが呼び捨てにするなと言いたげに怒りながら、
元の世界にいた頃……いや……俺と付き合い始めて本性を現し出した、高校一年生の夏頃からこの女は何も変わっていない。
変わったといえば、また身長が伸びたことぐらいだろうか。
百六十後半……いや、下手したら百七十センチメートルぐらいあるんじゃないか?
身長だけなら、俺と三、四センチメートルしか変わらないぐらいに成長していそうだが……残念なことに、人間としての成長は一ミリもしていなさそうだ。
自分より家柄が悪そうな人間は容赦なく見下し、その人間が自分と対等になろうとすることを絶対に許さず、高圧的な態度で自分が上だと誇示するのは変わってねえな。
……プライドの塊というか、一昔前の名家や大富豪の家系に一人はいそうな嫌な奴。
そんでもって、金髪縦巻きロールに全身ハイブランドコーデ、いかにも高額ですよ! みたいなアクセサリーを全身に身に着けるこの派手さ。
お前は、どっかの王族か貴族かなんかか? と思わず突っ込みたくなるなぁ……相変わらず。
実際は王族でもなんでもなく、元の世界では、ただの某世界的有名な自動車メーカーの社長令嬢だっただけなんですけどね。
……とはいえ、ここまでの経歴だと何故こんな人間が、俺達一般人と同じように、普通の公立の進学校になんか入ったんだ? と、思いたくもなるが、この女は世界に名を轟かせる偉大な父親からにすら、お前は常識がなさ過ぎると苦言を呈され、もっと常識的な一般人の皆様から色々学びなさい! と言わんばかりに、エスカレーター式のお嬢様学校を中学で辞めさせられたのが理由だ。
もちろんそれに反発した国分は、当て付けのように自分の家から一番近いという理由で、俺達と同じ高校に入った。
だから、経歴と家柄だけは超一流のあの女が、あなた達みたいな一般人と同じ高校で同じクラスになってしまったのよ……と話していた。
まあ、ワガママな上に、こんなあからさまな選民意識を見せ付けられたら、一般人の俺は別れを切り出しちゃうよね。
この世界……異世界での二年間でもしかしたら変わったかも……とほんの少しでも期待するのはただのバカだ。
今、あの女が口にした言葉で全てが分かる。
何も変わっていないし、きっと俺たちの役に立つどころか、敵なんだろうなあと。
そして、それは国分とアルラギア派遣軍のおっさん達、囲まれている女性とのやり取りで確信に変わる。
「ハッハッハ! これは失敬! エリナ様!」
「相変わらず今日もおキレイなことで!」
「悪いな! 俺達は、身分が上の人間に敬語を使うことすら出来ない落ちこぼれなんでな!」
「頭が痛くなるわ……常識よ常識……」
……あの様子だと、どうやら国分とアルラギア派遣軍のおっさん連中は、顔見知りのようだな。
「おい、
「分かってる。私も
俺達二人の意見は一致していた。
もう少し、あの連中のやり取りを聞こうと。
なので、この場から動かないことにした。
助けを求めてきた若い女性からの視線は痛いが……ここは少し我慢だ。
「……で、ちょうど良かったとは何かしら?」
「ああ、聞いてくれよ。このお嬢ちゃんが、俺達の相手を拒むんだ」
「何とか言ってやってくれ」
「エリナ様……彼女の説得は、ロールクワイフ共和国の勇者パーティーの仕事だと、我々は思うのだが……どうだろう?」
「……従属国の一般市民ごときも説得出来ないのに、よく派遣軍の一員になれたわね」
国分は、俺達だけではなく、近くを通りかかるこの街の人間にも聞こえるように、わざと大きな声で、嫌味ったらしく派遣軍のおっさん達をバカにした。
……ああ、やっぱダメだな。
何にも、変わってねえ。
もし変わっているのであれば、一度はそういう仲になったんだ。
力になれることがあれば、協力した……かも。
ハハッ……俺もバカだな。
何を期待していたんだ。
国分に。
「あ、あなたは勇者レア様のお仲間! お願いです! 助けて下さい!」
「……フッ、一般人のあなたを助けて、わたくしに何のメリットが?」
「そ、そんな……」
「丁度いいわ。従属国という言葉の意味を教えて貰いなさい。学の無い中年でも、それくらい教えられるでしょうから」
助けてくれと縋りつく、女性に国分は冷たくそう言い放った。
……もう、いいな。
十分、国分がこの世界でどんな存在なのか、だいたい分かったよ。
「麗翠……予定変更だ。まずは、国分を……捕まえるぞ。強化魔法最大で頼む」
「え、え……? ク、クアドラプル!」
俺は覚悟を決め、
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