第97話 はいはい予想通り……じゃねえ!?

 「し、神堂しんどうくん!? い、一体何をしてるの!?」


 俺と神堂のやり取りに麗翠れみが慌てた様子で割って入る。

 まあ……何も知らない麗翠が慌てるのも無理はない。

 俺と神堂の今のやり取りを知らない人間が見れば、神堂が取引と称して俺を脅そうとしている光景にしか見えないだろうし。

 

 「……あ? 何だテメェ? 一切ネグレリアとの戦いには参加してなかったクセに、それで上様を守っているつもりか? 矛盾してんだろ? 橋本はしもと姉?」

 「……覚えてたんだ、私のこと」

 「ここで見るまではずっと忘れてたに決まってんだろ? バカじゃねえのか? テメェがあまりにも、人として成長してねえから思い出しちまったんだよ。マジでイラつく女だぜ」


 お前も俺とネグレリアとの戦いを安全な場所から見ていただけで、加勢しなかったじゃねえか! と神堂に突っ込みたかったが、辞めた。


 何故なら、神堂が明らかにイラついているから。

 自分の邪魔をされることを一番嫌う人間だからな……下手すれば麗翠が殺されるかもしれん。


 「……麗翠、神堂と二人で話させてくれないか?」


 ここは大人しく、神堂の取引とやらを聞くとしよう。

 神堂を怒らせたら面倒だ。


 「え、でも……」

 「流石、上様。賢いねえ……それに比べてこのバカ女は……」

 「麗翠、頼む。あと、腹減ったから夕飯作っといてくれ。神堂との話が終わったら、すぐに食べられるようにな」


 当然、麗翠は渋る。

 神堂は、俺の提案にご満悦そうだが、麗翠に対しては……殺意に満ち溢れた目で見ている。

 本当にヤバい。

 なので、ここは大人しく先に家へ帰って欲しい。


 「……一時間」

 「へ?」

 「全部、準備が終わるまでそれぐらいだから、一時間経ったら迎えに来るから。……神堂くんもそれでいい?」

 「……あ? それでいいですか? の間違いじゃねえのか? 何でテメェごときが俺にそんな口を叩いてるんだ?」

 「……それでいいですか?」

 「チッ……ああ、構わねえよ」

 「……トランスファー」


 一時間経ったら、迎えに来る。

 麗翠はそう言い残し、転移魔法で家へと戻っていった。

 有無を言わさずに約束させられたな。

 一時間で済ませろと。


 「チッ……眩しいな。あのバカ女……わざとやったんじゃねえだろうな?」

 「悪い。それは麗翠の転移魔法の欠点だから、わざとやったわけじゃない。で、取引ってのは? 一時間しか無いから早く話そうぜ?」


 俺も神堂に聞きたいことが色々あるからな。

 神堂の麗翠に対する悪口をグチグチと聞かされるよりも、早く本題に入ったが良い。


 「チッ……一時間しかねえのはあのバカ女のせいだろ……まあいい、本題にさっさと入れるしな。取引は魔王の剣についてだ。もちろんタダでとは言わねえ」

 「取引の内容を聞かせて貰おうか」


 ……まあ、予想通りだな。

 伊東いとうが持っていたフィスフェレムの魔王の剣もアブソープションとかいう魔法で吸収していたわけだし、神堂は魔王の剣を集めているとみて間違いない。

 だから、どうせ魔王の剣絡みなんじゃないかとは思っていたよ。


 「まず、ネグレリアが持っていた魔王の剣を俺に渡せ。代わりに俺は上様に女神の黄イーリス・イエローを渡す」

 「はいはい予想通り……じゃねえ!?」


 マジかよ。

 ビックリして思わず叫んじまったよ。

 何だその取引……俺に得しかねえ。

 しかし、神堂はまだ続きがあるから焦るなと言いたげな顔をしながら、話を続ける。


 「岸田きしだ達を殺したけりゃ、勝手に殺して良いぜ? って俺が上様に言ったのを覚えてるか?」

 「ああ、覚えてる。それがどうした?」

 「やっぱそれは無しだ。岸田達は俺の手で殺す。どうやら奴らの中に魔王の剣を持っている人間がいるみたいだからな。それに……俺が留守にしていた間に、岸田達が率いるアルラギア帝国軍に、俺がいた国は滅ぼされ、更に俺の駒……じゃねえな……調教中だったパーティーメンバー三人も殺されたんだ」

 「……あいつら、マジで人を殺しまくってるんだな。この世界の人間も、元クラスメイトも問わず」


 岸田達には当然呆れるが、少し同情する気持ちもあった。

 何故なら、今の神堂にアイツらが勝てるわけが無いからだ。


 (「あら……アンタに手こずっている場合じゃ無さそうね! アンタよりもヤバそうなのがいるわ!」)


 ネグレリアが、俺との戦いの最中に言った言葉の意味がその証明だ。

 恐らくネグレリアが言ったアンタ(俺)よりもヤバそうな奴とは、神堂のこと。

 つまり、ネグレリアから見て俺と神堂では、神堂の方が上という評価なんだから、俺に負けて逃げた奴らが神堂に勝てるわけがない。


 あーあ、アイツら死んだな。


 嫌いな奴らがほぼ間違いなく死ぬという事実に、俺は思わずニヤついてしまう。


 「その反応だと、俺が岸田達を殺しても上様は文句無さそうだな」

 「ああ、別に問題ねえ。それよりも、神堂のパーティーメンバー三人って誰だったんだ?」


 神堂に殺されることが既にほとんど決定した岸田達どうこうよりも、殺された神堂のパーティーメンバー三人の方がむしろ気になっていた。

 ……殺された人間次第では……話が変わってくるからな。


 ……というか、この取引があまりにも俺が得する話だからか?

 嫌なことを知ってしまいそうな気がするんだ。

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