第96話 決着、気配の正体
どのぐらいの時間が経ったのか、もう分からなくなっていた。
それほどの長期戦だった。
しかし、相変わらず俺もネグレリアも、相手を挑発したり罵り合ったりしている。
「どうした? へばって来たんじゃねえか?」
「それはこっちのセリフよ! アンタこそ、もう限界なんじゃない?」
「まだまだ余裕に決まってんだろ? いつまでもやってられるぜ?」
もちろんブラフだ。
余裕なわけがない。
魔王軍の幹部という強敵と長い間戦っているんだから、当たり前だが。
「んもう! 本当に……アンタ可愛くないわね! ちっとも隙見せないじゃない! アンタの体力なんなのよ! 本当に人間!?」
「元の世界じゃ、とにかくスタミナが必要だと教えられたからな! そこら辺の女神の加護頼みの奴らとは一味違うぜ?」
「化け物ね……こんなにも長い間動けるなんて……今までアタシが出会ってきた人間は、一体なんだったのかしら……」
……高校の時の監督には感謝だな。
元の世界の時は、バカみたいに走らせて、とにかくスタミナを付けろ! と連呼するだけとか、いつの時代の野球部の監督だよ……と思っていてすいませんでした。
お陰で、今では異世界の魔王軍幹部であるネグレリアに、化け物と呼ばれるくらいの人間に成長しました。
……まあ、ほとんど女神の加護での身体強化と
だが、俺も動きにキレがなくなってきた。
こんなにも長時間、
しかし、ネグレリアも戦い始めた時より動きが鈍くなっている。
このままいけば多分イケる。
不安要素があるとすれば……一瞬だけ感じた女神の加護持ちの気配だな。
そいつが味方なら良いが……。
まあ……味方では無いんだろうな。
近くにいて、俺とネグレリアの戦いを見ているのに、加勢に加わって来ない辺り。
「あら……アンタに手こずっている場合じゃ無さそうね! アンタよりもヤバそうなのがいるわ!」
「!?」
突然、ネグレリアはそう言うと、急に攻めてきた。
この長い時間の戦いの間、隙を伺うばかりで、俺の攻撃をいなし続け、ほとんど攻めずにいたはずのネグレリアが、一気にくる。
一瞬、驚いて隙が出来てしまう。
クソッ……使うしかねえ!
ここで、俺が持つ全ての女神の加護を!
「貰ったわ! 終わりよ!」
「当たれえええええ!!!!!」
ザシュ。
ミシッ……バキッ……ピキッ……グシャ。
肉が斬れた音の後、何かが壊れたような音がして、最後に骨が折れた音がした。
「……う、ウブッ……ゲフッ……ガハッ……ゴホッ……」
「あは〜! 喰らっちゃったわねえ! 思いっきり! でも、褒めてあげるわ! アタシの利き腕を斬って、血を流させたことは!」
肉が斬れた音は、ネグレリアの右腕の肉が斬れた音。
何か壊れたような音は、俺の防具が壊れた音。
そして、骨が折れた音は、俺の肋骨が折れた音だった。
一気に身体の中から血が喉まで上がってきて、思わず血を吐いてしまった。
ああ……クソ。
隠していた女神の加護の剣術能力の一つ、互いの斬撃を相殺し、わずかに押し切ることで微妙に相手の斬撃をずらす
でも、全部の女神の加護を使ったお陰で、死なずに死んだ。
まあ……重傷なんですけどね。
「……やっと……お前の……身体に……剣を……当てられたぜ」
「そうね。でも、アンタはもう負けよ!」
「……いいや、負けたのは……お前……だ」
「死になさい!」
ネグレリアは勝ったと言わんばかりに、俺に強烈な一撃を喰らわせようとする。
当然だ。
ネグレリアの攻撃が鎧に当たっていたとはいえ、俺の着ていた鎧では防ぎきれず壊され、肋骨も完璧に折られて立てない。
対してネグレリアは、腕を少し斬られた程度。
どう考えても、大きなダメージを負ったのは俺。
負けそうなのは、俺。
止めを刺す権利があるのは、ネグレリア。
誰が見てもそうだろう。
だが……その一撃が俺に届くことはなかった。
「な……何……を……し、したの……? アン……タ……?」
ネグレリアは突然動けなくなり、
「大丈夫!?
「離れ……た……とこ……ろ……で、見て……ろ……って、言った……ろ……」
「黙って見てられるわけないじゃん! ネグレリアに攻撃を当てるために死ぬ覚悟で向かったのが、分かっちゃったんだもん! 死んだら……死んだら……治せないんだよ!」
「い……痛……い。は、早く……か、回……復」
「リカバリー……フルスロットル!」
どうやら麗翠は俺がダメージ覚悟で、ネグレリアに攻撃を当てようとしていることを察して、俺の近くに来たみたいだ。
……本当に離れた所で見てたのか? 遠目でそんなことが分かるか?
まあ……回復魔法は、凄く助かるけど。
「……もう、大丈夫だ麗翠」
「ちょっ! まだ回復しきれてないって!」
「良いから……早くしないと
回復魔法をかけている麗翠を静止して立ち上がり、倒れて動けなくなっているネグレリアの近くへ行く。
「ア……アン……タ……何……を……」
俺が近付いてきたことに気付いたネグレリアは、自分に何をしたんだと聞いてくる。
なので、止めを刺しつつ教える。
「女神の剣の三本同時起動って言ってたろ? 女神の紫で使える専用魔法は、致死に至る毒魔法だけじゃないぜ? 麻痺に特化した毒魔法もあるんだよ! そしてそれは剣に付与出来……る!」
「ア……ア……ア……」
ネグレリア・ワームを通して、俺の戦い方や使える魔法はほぼほぼバレていた。
ネグレリアにこんなにも苦戦した理由の一つだろう。
対策を打たれていたというのは。
だが逆にそれは、ネグレリア・ワームの前で使っていない魔法は、対策していないと俺に教えているようなもんだった。
ネグレリアの敗因はそこだろう。
「……色々、お前に聞きたいことはあったが……そんな余裕は無さそうなんでな」
「…………」
ネグレリアの持つ情報は欲しかったが……再度やったら勝てる気が全くしないと判断した俺は、ネグレリアをバラバラに切り刻んで、殺した。
これで終わり……では無さそうだな。
この、人を見下したような拍手……。
「ずっと俺達の近くにいたのは……お前か、
「いやーやっぱやるなあ……上様。さて、取引しようぜ?」
神堂は、取引しようぜと言っているものの……既に、自らの持つ魔王の剣を抜いていた。
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