第95話 罵り合うし、殺し合う
「オラァ!」
「……ぐっ、下等生物のくせに……生意気よ!」
「はっ……お前が魔王軍幹部の割に弱いだけじゃねーのか? ネグレリアァ!」
「うっさいわね! 女神の加護が無ければアンタら人間なんて何も出来ないゴミでしょ!」
お互いの持つ剣がぶつかり合う度、この大広間には不愉快な音が響き渡る。
しかも、
山積みされていた死体で出来ていた死体の山が崩れていたり、死体が着ていた鎧が粉々になっていたり、死体がバラバラになったり、ペシャンコに潰れてしまったり……。
……周囲へのこの影響力から見て、ネグレリアは、フィスフェレムや魔王の剣を持った
弱いとか言って挑発したのは、全くのブラフだよ。
最後には俺が勝つだろうが、油断したり、戦い方をミスれば、死ぬのは俺だ。
フィスフェレムの時にだって、もちろん死を覚悟しているつもりだったが、あんなの覚悟の内に入らねえな。
そしてそれは、ネグレリアも同じだろう。
その証拠に一切、ふざけたり手を抜いたりしている様子がない。
「ムカつくわねえアンタ! 女神の加護頼みの剣術かと思ったら、しっかり身体作っている上に剣術の技術もちゃんと身に付いてるなんて! 攻撃の一撃一撃が重いわ! しかもずる賢い人間らしく、アタシのイヤな所ばっかり攻めてきて!」
「その割には、随分簡単にいなしてくれるじゃねえかよ! 女神イーリス様仕込みの剣術かあ!?」
「はんっ! 違うわよ! アンタが下等生物だからよ! 下等生物がどんなに努力しようがアタシには届かない! 届くわけがないし、届いて良いはずが無いのよ!」
……普通、ゲームとかアニメのボスって最後まで余裕ぶっこいてるもんだろーが。
なんで、お前はそんなに本気で戦ってるんだよ……って、これは現実だったな。
……というかその前に、ゲームやアニメの主人公……勇者は、俺なんかと違って、もっとスマートに戦うか。
酷いもんだぜ、俺もネグレリアも。
何故俺はこんなことを命がけの戦いの中で、考えているのか。
それは、俺とネグレリアが戦いが始まっても、お互いのことを罵り合っていたからだろうな。
これじゃまるで、社会の常識もまだ分かっていない、子供の喧嘩だ。
なんだったら、そこら辺の小学生よりも、頭の悪い戦いを俺とネグレリアは繰り広げていると自分でも思ってしまう。
こんな戦いをこの世界の人間に見られたら、あれが女神の剣を持った勇者(あくまでこの世界の人間が勝手に言ってるだけ)と魔王の剣を持った魔王軍幹部の戦いなのかよ……って呆れられるだろうな。
もっと冷静に、戦えよ……。
そんな戦い方じゃ勝てる戦いも勝てないぜ?
お互いにバカ丸出しの戦い方だなぁ……。
この戦いにもしギャラリーがいたらそんなヤジが飛んできそうだな。
「んもう! 全っ然、魔王の剣の能力生かせない! 頭に来ちゃうわ!
戦い始めて、数十分くらいか。
ネグレリアのイライラは頂点に達していた。
自分の魔王の剣の能力が、女神の藍の力によって、完全に消されているからだろう。
「お前の魔王の剣の能力は、死体を自在に操る能力だろ?
「本っ当、うっさいわね! 丁度いいハンデよ! 現にアタシとアンタ、今互角じゃない!」
「ちょっとの間だけ俺と互角で戦えるのなんか、魔王軍最弱のフィスフェレムですら出来たんだぜ? 魔王軍幹部四番目の強さのネグレリアさんよぉ!」
「フィスフェレムなんかと一緒にしないでちょうだい!」
……フィスフェレムなんかと一緒にしてねえよ。
これも、ブラフだっつーの。
正直俺は、少し焦っていた。
このまま戦いが長引くのは、女神の剣を三本同時起動させている俺にとって、かなりキツい。
つーか、ネグレリアの剣術やべえな。
全く隙がねえ。
腐っても、かつてイーリスに仕えていた騎士なだけはある。
ネグレリアの隙を作る方法……あるっちゃあるが、それをやるとしたら一度きりだぞ。
一回その方法を見せたら、多分ネグレリアはすぐに対応してくる。
二度目はねえ。
……焦るな。
もっとネグレリアの動きが鈍ってからでいい。
心は怒りで冷静じゃなくて良いから、頭は冷静に判断しろ。
早くケリをつけようとして、逆に隙を突かれて負けたら、ただのバカだ。
後はセーブしている女神の加護を使うタイミングも重要だな。
使える女神の加護は、全部使わないと勝てる相手じゃないし、出し惜しみしている場合でも無いのも分かっている。
だが、女神の剣を三本同時期起動させている状態で、これ以上他の女神の加護を使えば、何らかの影響が出そうだな。
ちょっと本当に身体がキツくなってきた。
麗翠の回復魔法で回復出来るかどうかも分からないから、迂闊に全開ってわけにもいかない。
耐えろ……もう少し。
ネグレリアの動きが鈍るまで。
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