第92話 青白い首無し騎士《ペイル・デュラハン》 ネグレリア
この部屋にネグレリア・ワームはいない。
それなのに、死体が生き返ったかのように起き上がったということは、
しかも、ネグレリア・ワームが死体に寄生して、動く死体化とさせる時よりも、早いスピードでガンガン死体を動く死体化させているな。
まあ、魔王軍七幹部であるネグレリアが与えた魔王の剣だ。
それぐらいの能力……いや、チートさはあって当然だろ。
この九階の大広間に大量の死体がストックされてあったのも、あの魔王の剣の能力を最大限に活かすためか。
……で、俺みたいな侵入者をこうやって疲れさせて、疲れた所を隼の持っている魔王の剣の力で、この九階にストックしてある大量の死体を復活させ、数の暴力で押し切って勝つ。
ああ……なるほど。
俺はまんまと隼の挑発に乗って、隼の思い描くビジョン通りに動いてしまったわけか。
怒りに身を任せて、
しかも隼に……いや、相手にムカついて、相手を殺すことで頭がいっぱいになって、自分の防御のことなんかも全く考えずに、起動していたのが
「……エクスチェンジ、
ひと呼吸置き、完全に冷静になった俺は、女神の藍のディサイドを使う。
隼を倒しにかかるよりも、まずは、隼が魔王の剣の力で動かそうとしている大量の死体をただの普通の動かない死体にするのが先だ。
……うおっ、しかも麗翠の強化魔法の力で、ディサイドの効果が効く範囲が拡がっているから、この大広間全体にディサイドを掛けることが出来るようになってるじゃん。
これなら隼がどんなに死体を動かそうとしても、すぐにディサイドでただの死体にすることが出来……る……。
喜んていたのも、束の間だった。
あんなに俺の剣や魔法を軽快にかわし続けていた隼が、倒れていたのだ。
隼の持っていた魔王の剣は、隼の手を離れ、隼から少し離れた場所にポツンと落ちていた。
ディサイドの生きた人間への効果は、麻痺や毒といった異常状態を無かったことにする魔法。
だから、隼には何の効果も無いはず。
ネグレリアに、生きた人間を操る力は無い。
あくまで、ネグレリアが操れるのは死んだ人間のみ。
だから、ネグレリアは効率よく国を滅ぼすために、生きた人間を操れるフィスフェレムと組んでいる……というのがジェノニアで判明したはずだ。
なのに……何故、隼が倒れている?
まさか……俺はずっと……隼の死体と戦っていたのか?
……いや、だとしたらあの動きはなんだ?
いくら俺が頭に血が登っていて、冷静ではなかったからって、女神の加護と麗翠の強化魔法によって強化された剣撃と魔法を避け続けて、俺を疲れさせるなんてことが、死体なんかに出来るのか……?
いや……隼が死んでいるとは限らない。
色んな可能性を俺が考えているその時だった。
突然、現れた。
「あら〜やっぱりダメねえん……折角、高いお金を払って、女神に選ばれた人間の死体を手に入れたのに……女神の藍の使い手が相手じゃ、やっぱり相性が悪かったわねん……使えないわあ。んもう! 結局、アタシがやるしかないじゃない!」
「…………」
力が抜けるような、緩い感じのノリ。
だが、この威圧感。
フィスフェレムと同じ……いや、それ以上か。
現れたのは……。
魔王軍七幹部……。
「ネグレリア……」
「んふっ……フィスフェレムを倒した勇者に、アタシの名前を覚えられてるなんて、こ・う・え・い! ……といってもアタシは、魔王軍七幹部最弱のフィスフェレムと違って、魔王軍七幹部の中で四番目よん」
「…………」
こいつが……目の前にいるこいつが……魔王軍幹部で四番目のネグレリア……。
気持ち悪い。
ネグレリアを一目見た感想はそれしか無かった。
口調も不気味だが、脛毛がびっしり生えた筋肉粒々の足に対して、腕や手は細く、毛一本生えておらず、しかも青白い。
着ている鎧は、人の血で真っ赤に染まっているだけでなく、禍々しいオーラを感じるし、何故か三人分の人間の生首を持っている。
そして何より……ネグレリアには首が上が無い。
つまり……コイツは……。
「
「!? んもう、失礼しちゃうわ! アタシがデュラハンなんて下等な存在なわけないでしょ! やーね、本当に!
「はあ……」
ネグレリアを首無し騎士呼ばわりした途端、ネグレリアはすぐに否定し、自分は青白い騎士だ。
間違えるなと俺にキレる。
だが、すぐに。
「あ、でもアタシ……そういえば、女神イーリスを裏切った時に、イーリスに首切り落とされてるし、
「知らねえよ……」
何なんだコイツ。
フィスフェレムとはまた違ったやりにくさだ。
しかも気になることをいくつか言ってたし。
高い金を払って、イーリスに選ばれた人間の死体を手に入れたってことは、やっぱり俺はずっと隼の死体と戦っていたってことだ。
しかも、高い金を払ったって、一体誰に……。
それと、イーリスを裏切ったってことは……ネグレリアは元々女神側……人間の味方だったってことか?
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