第91話 佐藤 隼
決して俺と
じゃあ、友達だったかと聞かれれば、放課後とかに、一緒に遊んだこともねえし、学校以外じゃ会うことはなかった。
だが、俺は隼を凄い人間だと思っていた。
正直、高校時代の俺はクラスで好き勝手やってる
中学の時のように、暴力で解決しようとすれば、退学になるかもしれないし、野球部にも迷惑がかかるしなあ……というもっともらしい理由を付けて。
まあ本当は、主にそのクズどもの被害に遭っている
しかし隼は違った。
根気強く、クラスの副委員長として、あのクズどもを注意し続け、寺原達を庇ったりしていた。
岸田達に真面目くんがウザいとか、からかわれたり、暴言を吐かれたり。
俺みたいに、我関せずの傍観者達に、あんな奴らほっときなよとか、寺原達なんか庇ったところで、何も良いことないじゃんと、冷ややかな目を向けられながら笑われたり。
助けているはずの寺原達から、余計なことをするなと文句を言われながらも。
それでもずっと、岸田達を何とかしようと、諦めなかった男だ。
委員長だった奴が、本当に何もしねー女だったから、余計に凄いな……こんな人間がまだいるんだなあ……って、少しお前に憧れていたんだぜ?
なのに……なんでそんな人間になってしまったんだ?
こっちの世界に来てからお前に何があった?
かつてのお前はそんな人間じゃなかっただろ。
なのになんだ……そのお前の面は?
こんなに多くの人間が、魔王軍のせいで死んでいるのに、何故お前は平然としていられるんだ?
何故お前は魔王軍の一員としていられるんだ?
「隼……! お前……どういうつもりだ!」
「…………」
「なんか言えよ! どうして魔王軍なんかに寝返った!」
「…………」
隼と戦い始めて数分は経っていた。
だが、俺が一方的に隼に怒りをぶつけているたけで、隼は俺と全く喋ろうとしない。
クソっ……コイツ……。
完全に俺のことを無視してやがる……。
しかも、隼の野郎……俺の攻撃をヒラヒラと避けているだけで、まともに戦おうともしねえし……マジで神経が逆撫でされるぜ……。
……落ち着け。
これも隼の戦略かもしれない。
俺をキレさせて、俺の動きを単調にし、隙を作らせて、その隙を突こうとしているのかもしれない。
だが、隼と俺との身体能力差や持っている女神の加護の数の差からしても、普通に戦えば、まず負けねえ。
負けねえけど……。
「無視してんじゃねえよ! 隼! お前も岸田達みてえな、クズどもに成り下がってんじゃねえよ! この裏切り者がよ!」
「…………」
「クッソ……ちょこまかと避けまくってんじゃねえよ! 戦うんなら真面目に戦え! 俺を殺すつもりで、その剣を抜いたんじゃねえのか!?」
「…………」
「ああうぜえ! 戦う気ねえんなら、どけろよ! とっととネグレリアと戦わせろよ!」
「…………」
……ダメだ。
全っ然、冷静になれる気がしねえ。
むしろ、隼の術中にまんまとハマっている気しかしねえ。
「デッドリーポイズン!」
「…………」
「はあ!? この近距離で魔法も避けられるのかよ!?」
「…………」
剣による攻撃が当たらないのなら、
この魔法を喰らえば、いくら女神の加護を持っている人間だとはいえ、死には至らなくても、吐血したりなど身体的ダメージはあるはず。
だが、隼は全く変わった様子はない。
ということは完璧に避けられたということだ。
チッ……本当にコイツ攻める気ねえ……長期戦……いや、消耗戦に持っていこうとしている。
……つーか少し、疲れてきたな。
怒りに身を任せて、バカみたいにずっと
一旦、隼から距離を取る。
疲れた状態で、今の隼に向かっていっても、攻撃が全く当たる気しないし、むしろ逆に俺が隙を突かれて、致命傷を負いそうだ。
ほんの少し冷静になった所で、
麗翠は……大丈夫そうだな。
ちゃんと俺達から距離を取って離れているし、防御魔法を使って、自分を守っているから、俺や隼の攻撃が当たってしまうということも無いだろう。
……って、マジかよ。
ヒラヒラ避けまくって、ちょこまかと逃げまくっていたクセに、こっちが距離を取って離れた瞬間、攻めてくんのかよ。
その証拠に、隼の持つ魔王の剣が黒く光った。
ここは無理に距離を詰めずに、隼の魔王の剣の効果を見てから……。
「仁! 死体が! 死体の山を見て!」
離れた後方から、俺達の戦いを見ていた麗翠が大声で叫ぶ。
麗翠の言う通りに死体の山を見ると、死体が生き返ったかのように、起き上がり始めていた。
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