第93話 三人分の生首

 「…………」


 こっちが色々と考えている間、ネグレリアはジーッと俺を眺めている……気がした。

 首から上が無いので、見られているわけがないのだが、舐めるように俺を見てきている気がする……。


 「……ゴクッ。アンタ、良い男ねえ……ネグレリア・ワームを通してアンタをずーっと見ていたけど、実物はもっとイイわねえ……」

 「…………」


 ネグレリアは、生唾を飲み込みながら、内股になり身体をくねらせている。

 ……フィスフェレムもそうだった。

 俺を見て、顔がタイプとか言いながら、腰をくねらせていたな。


 魔王軍幹部に好かれても、全然嬉しくねえ。

 ていうか、フィスフェレムはまだ可愛げのある幼女の姿をしていたが、ネグレリアに至ってはマジもんの化け物だからな。

 そんなことを言われても、悪寒しか走らねえ。


 「……ねえアンタ、本当に魔王軍に寝返らない? 人間たちなんかの戦力にしておくのはもったいないわ。フィスフェレムを倒した実力と実績があるんだから、魔王軍幹部になれるわよん?」

 「お断りだ。お前ら魔王軍の仲間になんかなるかよ」

 「まあまあ……即決しないの。これを見ればアンタの考えも変わるわ」


 当然、魔王軍への勧誘など俺は断る。

 だが、ネグレリアは落ち着けと言わんばかりに俺を諭す。

 そして、持っていた生首を何故か俺に見せようとする。


 「ほらほら! これ見て!」

 「何を見せられようが、俺が魔王軍に寝返るのはありえねえよ」

 「いいから見てみなさい! ほら!」


 ネグレリアは、どうしても俺に見てほしいのか、俺の足元へ二人分の生首を下投げで投げてくる。


 一体なんなんだ……生首なんか見せられても……って、は?


 「……おい、どういうことだ……ネグレリア?」

 「感謝してよ〜? アタシがそれキレイにしてあげたんだから〜! 気付いたでしょ? その顔……誰だか分かった?」

 「この二人は……俺と同じ世界から来た、女神の加護を持っているはずの人間だ」


 生首の顔は、ネグレリアの言う通り、確かにキレイにされていた。

 だからこそ、すぐに分かってしまった。

 この二人分の生首の正体が、一体誰なのか。


 マシな方のイトウ……バスケがメチャクチャ上手かった男子生徒、伊藤いとう千広ちひろ……そして、かつて俺達のクラスの委員長だった女子生徒、中村なかむら遥香はるかだ。


 「おいネグレリア……しゅんといい、伊藤、中村……この三人の死体を誰から買ったんだ?」

 「この世界の人間よ〜? 最低でしょ? 金のために自分達を守ってくれた人間を売るんだから。薄情よね〜死んで使えなくなったら、金に変えようだなんて」

 「…………」


 お前が金で買うからだろと突っ込みたくなったが、少し引っかかることがある。

 ネグレリアがこの世界の人間から、あの三人の死体を買ったと言っていたが、まず、この世界の人間は女神の加護を持った人間を殺すことが出来ないのに、どうやってあの三人の死体を手に入れたんだ?


 「……アンタも薄情ね。知り合いが殺された上に、その死体がアタシに売られてるのよ? もっとこの世界の人間に怒っても良いんじゃない?」


 自分が想定していた反応と違ったのか、ネグレリアは俺に対して呆れていた。

 ……知り合いって言っても、この三人と学校以外で会うほど仲良くは無かったからなあ。

 本当にただのクラスメイトという存在だ。


 確かに隼が死んでいたのは残念だ。

 隼が人間を裏切って、魔王軍に寝返ってしまった……と勘違いして、あんなに取り乱したというのが、俺が悲しい気持ちになっている、何よりの証拠だろう。

 

 だが残りの二人に関しては、別に……としか思っていない。

 なんなら中村に至っては、むしろ嫌いだったからな。

 委員長だったくせに、クラスの様々な問題を見て見ぬふりばっかして何にもしなかった奴だし。


 だから俺はネグレリアに平然と言い返す。


 「こっちの世界の人間は、女神の加護を持った人間を殺せない。つまり、この三人を殺したのは、女神の加護を持った人間……俺と同じ世界から来た人間なんだから、この件では俺がこっちの世界の人間に怒る権利はねえよ」

 「あらそう……じゃあ、この子の生首ならどうかしら? これ……アタシもお気に入り、な・の・よ?」


 そう言うと、ネグレリアは後ろ向きになり、持っていた最後の一つの生首を、自分の鎧の上に乗せる。

 すると、ミチミチミチという音がした。

 生首と……ネグレリアの胴体が繋がっている……のか?


 「本当この首、アタシにフィットするわ〜美しいアタシに、ピッタリ!」

 「…………」


 ネグレリアの声が変わった。

 さっきまでは、一言で表すと、むりやり女性の高い声を出している感じの野太い男の声といった感じだった。

 だが、今の声は……。

 いや、まさか……そんなわけがない。


 俺が知っている人間の声だった。

 しかも、その人間は既に死んでいる。

 だが、そんなことはあり得ないと俺は必死で否定する。

 きっと、聞き間違いだと。

 

 だが、ネグレリアは俺を嘲笑うかのように、振り向いて、言い放つ。


 「あら〜アンタ分かんないの? この声を聞いても? しょうがないわね〜顔見たら分かるでしょ? ?」

 「その顔で……その声で……俺を勇者様と呼ぶなぁぁぁぁぁ!!!!! ネグレリアァァァァァ!!!!!」


 俺がブチギレるには十分だった。

 ネグレリアが目の前で繋げた生首の顔が、リベッネだったからだ。

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